初っ端から、大学と、大手教育産業「ペネッセ」と、政府機関の癒着が指摘されるが、作者の社会批評が炸裂するのは、第二編「地下迷宮の幻影」だ。教育勅語を信奉し、ペネッセのライバル組織「JED」とつるんで政府機関を抱きこもうとする文化人が登場。この男は第二次大戦中の陸軍研究所とも繋がりがあるというから、きな臭い。クワコーは陰謀究明の任を帯びるのだが……。
奥泉は先行作『東京自叙伝』で日本の近現代の歴史を検証した。戦争や大規模な原発事故を体験しても、「無反省と現状肯定」が繰り返され、日本人が「反省も歴史化」も行わずにきたことを痛烈に批評した。思想を放棄し流されゆくクワコーには、そうした近現代の日本人の姿が重なるのではないか。おっ、意外と社会派!
※週刊ポスト2019年4月12日号