即興劇からキャリアをスタートさせ、毎日の観客の変化に対応させることを第一に考えてきただけに、役の準備においても「役作り」は考えないという。
「結局、主役はお客さんなんですよ。ここでこんな芝居をしたら違和感を持つだろうなということは避けるようにしました。
その一方で違和感を持たなきゃいけないところは違和感を持たせるのも必要なのかなとも思っています。そういうのも含めて作家や演出家と一致するかどうかです。芝居はあくまで作家であり演出家のものですから。
ですから、役作りって考えたことがないです。台本の中に自分を見つけることなんだろうとは思いますが作ったことはない。
最初はワンシーンごとに考えちゃうんですよ。それで本を何回か読んでいるうちに全体の雰囲気が見えてくる。その雰囲気に丸々入る役なのか、逆らう役なのか、そういうところを自分なりに解釈しながらやってきたつもりです。
自分の我をあまり出すものではないと思う。役者としてはどうしても我を出します。そうすると失敗するんです。やってみたら出ていた──と言われたら、これはしょうがないんですけど。その映画、ドラマに役立っていれば、それは成功だったと思いますよね」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影:藤岡雅樹
※週刊ポスト2019年5月31日号