ドラマやCMに出演し、押しも押されぬ大女優の地位にのし上がった・Xの流出映像となれば大問題だが、実はこれも「ディープフェイク」による偽の映像だった。よく確認すると、顔の表情はXそのものだが、髪型や耳の形、そして体型はXとは異なる。こうした偽のアダルト映像が今、ネット上で急速に広まっている。アダルト業界に詳しいライターが次のように解説する。
「ネット黎明期に流行った”アイコラ”(アイドルコラージュ)は、ヌード写真の顔を有名人とすり替えたもので、アイコラ専門サイトが林立するほどの人気でしたが、今はその映像版であるディープフェイク専門サイトが国内外で立ち上がっています。ターゲットとなるアイドルの映像をAI(人工知能)に学習させ、表情のパターンを作らせる。それを既存のアダルトビデオに出演する女優の顔にはめ込むわけです。半年前と比べても技術は進化していて、顔がどちらを向こうがうまく有名人の顔とすげ替えられており、一見すると“本人の流出映像か”と思ってしまいます」(アダルトライター)
ネット上に開設された非合法のアダルトサイトを確認したところ、確かにありとあらゆる女性芸能人、有名人ら出演しているように見える動画が大量に投稿されていた。そして、そこには閲覧者らによる「素晴らしい」「もっと作って」「次は女優の××で」などと言った賞賛のコメントが多く寄せられている。著作権侵害、名誉毀損など多くの罪に問われそうな行為にも関わらず、問題視するもの、咎めるものはほとんど見当たらない。
筆者は、こうした動画を制作し、ネット上にアップロードしていると見られる複数のユーザーに接触し、そのうちの一人に話を聞いた。
「本職はデザイナーですが、AIに興味があり、趣味で作ったディープフェイクのアダルト映像をSNSにあげたところ、大変な反響があったんです。ビットコインで支払うから、この女優で映像を作って欲しいなどの要望もあり、実際にそうした取引に応じたこともあります。ダークウェブ界隈の取引サイトでも動画の売買が行われているようで、海外では専門のサイトが多く立ち上がっています。大きな収益になるかもしれませんが、僕はまだ小遣い程度。趣味の範疇を超えないですね」
この人物、一貫して悪びれることはなく「単なるお遊び」といって憚らないが、やっていることが様々な権利を侵害しているのは明らかだ。にも関わらず、彼らが「悪びれない」ことの背景には、特にセクシーなディープフェイク動画の場合は、見た人を「騙してやろう」という目的で作成されていないこともある。先に紹介したネットユーザーらの「賞賛コメント」を見てもわかるように、皆が「偽物だとわかった」上で、動画を作成したり閲覧したりする。課金型のアダルトサイトにもディープフェイク動画は多数アップされているが、金を払ってでもいいから「偽動画」を見たい、というユーザーも確かに存在するのだ。しかし彼の言動からは、後ろめたさを抱いていることも感じさせる。
「動画の投稿は全て、簡単には足がつかない特殊なWebブラウザを通じて行なっています。こんな馬鹿なことで逮捕されたら恥ずかしいじゃないですか」
こんな「馬鹿なこと」ではあるが、すでに傷つき、実生活や仕事に影響が及んでいる被害者に思いを馳せる様子は微塵もない。次の大統領選など世界経済、世界秩序に悪影響を及ぼすかもしれないのに、だ。技術の進歩は歓迎すべきだが、それを作り上げた人間、利用する人間の秩序は、いつも出遅れるばかり。「本人が喋っているように見える映像も疑うべき」という殺伐とした世界の到来はすぐそこだ。