「前出の書籍には、1862年になってボール製作者Richard Lindonの妻が、豚の膀胱を膨らますことが原因で病気にかかり死亡したことをおそらくきっかけとして、ボールの内袋にゴムが使われ出した──とあります。その後、ハンドリングとパスがキックよりも重要になり、ボールの形がどんどん流線型となった、とも記されています」(同前)
かつてラグビーは、トライ後のゴールキックによってのみ得点を競う競技であり、トライそのものには得点は与えられなかった。その後トライにも得点が与えられるようになったことと、そもそもキックより手で扱うことを重視されていたことから、球体が少しいびつになっただけの“楕円球”から、よりはっきりと楕円球になっていった。確かに、ボールを強く抱きしめて走るときには、球体よりも楕円球のほうが扱いやすい。
ラグビーボールが楕円球なのは、「どこに転がるがわからない」といった偶発性を重視したわけではなく、選手がよりプレーしやすいよう機能性を旨として、ボールもまた変わってきた。まったくもって実利的な理由であったのだ。
ただ、実際、試合中にどこに転がるかわからない楕円球だからこその“演出”が行われることもしばしば。「あのプレーで、相手チームのほうにボールが転がらなければ……」というシーンはよくある。「ボールはひたむきに努力している奴の前に転がってくる」というのも、ラグビー選手が好む“寓話”のひとつだ。
そんなラグビー特有の寓話をおもしろがれるようになったら、あなたはもう相当なラグビー通といえる。今回のW杯を機に、そんな寓話に親しんでみるのも一興かもしれない。
●取材・文/岸川貴文(フリーライター)