ライフ

「楠公」メディアミックス復興の兆しに注意【大塚英志氏書評】

『国家はいかに「楠木正成」を作ったのか 非常時日本の楠公崇拝』谷田博幸・著

【書評】『国家はいかに「楠木正成」を作ったのか 非常時日本の楠公崇拝』/谷田博幸・著/河出書房新社/2900円+税
【評者】大塚英志(まんが原作者)

 十五年戦争下はメディアミックスの時代であった、とぼくが自著『大政翼賛会のメディアミックス』でかなり実証的に論じたところで怪訝そうな顔しか返ってこないが、この時代のプロパガンダはただの物量作戦でなく、同一のキャラクター及び世界から短期集中的に複数作家で多メディア展開が特徴である。

 昭和十五年から十六年の「翼賛一家」であれば、同一のキャラクターと同一の舞台(町内)で全国紙五紙、少なくとも三誌の週刊誌のまんが連載、レコード、演劇、ラジオドラマ、小説など短期集中でリリースがなされた。

 本書が扱う楠木正成及び「太平記」もまた戦時下のメディアミックスの重要な題材である。戦時下的な「公」のアイコンとしての「楠公」は満州事変をトリガーに昭和十年の国民的祝祭「大楠公六百年記念祭」を中心に式典などのイベントのみならず、小説に限定しても菊池寛、直木三十五、大佛次郎、武者小路実篤らがこのタイミングで「太平記」「楠公」をモチーフとした作品を上梓する。

 これに雑誌の特集、新聞連載記事、あるいは様々な記念出版物、ポスターから記念乗車券といったあらゆるツールでの露出が「式典」と連動した。「それは量たるや尋常で」ない「金太郎飴」であった、と著者は言い得て妙だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

撮影現場で木村拓哉が声を上げた
木村拓哉、ドラマ撮影現場での緊迫事態 行ったり来たりしてスマホで撮影する若者集団に「どうかやめてほしい」と厳しく注意
女性セブン
5月13日、公職選挙法違反の疑いで家宅捜索を受けた黒川邦彦代表(45)と根本良輔幹事長(29)
《つばさの党にガサ入れ》「捕まらないでしょ」黒川敦彦代表らが CIA音頭に続き5股不倫ヤジ…活動家の「逮捕への覚悟」
NEWSポストセブン
今年は渋野日向子にとってパリ五輪以上に重要な局面が(Getty Images)
【女子ゴルフ・渋野日向子が迎える正念場】“パリ五輪より大事な戦い”に向けて“売れっ子”にコーチングを依頼
週刊ポスト
テレビ朝日に1977年に入社した南美希子さん(左)、2000年入社の石井希和アナ
元テレビ朝日・南美希子さん&石井希和さんが振り返る新人アナウンサー時代 「同期9人と過ごす楽しい毎日」「甲子園リポートの緊張感」
週刊ポスト
5月場所
波乱の5月場所初日、向正面に「溜席の着物美人」の姿が! 本人が語った溜席の観戦マナー「正座で背筋を伸ばして見てもらいたい」
NEWSポストセブン
氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
AKB48の元メンバー・篠田麻里子(ドラマ公式Xより)
【完全復帰へ一直線】不倫妻役の体当たり演技で話題の篠田麻里子 ベージュニットで登場した渋谷の夜
NEWSポストセブン
”うめつば”の愛称で親しまれた梅田直樹さん(41)と益若つばささん(38)
《益若つばさの元夫・梅田直樹の今》恋人とは「お別れしました」本人が語った新生活と「元妻との関係」
NEWSポストセブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
女性セブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン