ライフ

酒井順子 SNS登場で変わった「恥の感覚」を覗くエッセイ集

恥と自慢にまつわるエッセイを上梓した酒井順子さん(撮影/政川慎治)

【著者に訊け】酒井順子さん/『センス・オブ・シェイム 恥の感覚』/文藝春秋/1400円+税

【本の内容】
 満たされぬ自己承認欲求をSNSによって満たした中年たちを酒井さんはこう綴る。〈自分の欲望の趣くままに自慢するので、やたらと連投する人、思いの丈を長文に託す人、イデオロギーを前面に押し出す人、明らかにフェイスブック中毒になっている人など、珍獣がそこここに〉――。人や年齢、時代によって変わりゆく恥と自慢の感覚をユーモアたっぷりに綴ったエッセイ集。噴き出し注意です。

 西欧の「罪の文化」に対して、日本は「恥の文化」だといわれる。そんな私たちの「恥」の感覚(センス・オブ・シェイム)が、SNSの発達によって変わってきていると酒井さんは指摘する。

「前に、編集者さんと話していて、それは『センス・オブ・シェイム』の問題だよね、って話題にしたことがあったんです。雑誌で何か連載を、と言われたとき、ちょうどSNSについて思うところもあったので、そのあたりを書きたい順に書いていきました。自分自身も年をとって恥じらいがすり減っていく。同時に、世の中の恥の感覚も結構、変わってきているんじゃないかな、と思ったんですね」

 面白いのが「自慢」と「恥」の関係だ。古来、日本には「自慢」を恥じ、嫌う文化があった。「すべてのエッセイは自慢話である」と言ったのは井上ひさしさんだが、プロの文筆家は「一見、自慢っぽくないけれど、実は自慢」というテクニックを磨いてきた。

 ところが、フェイスブックなどのSNSでは、アマチュアによるむきだしの「自慢」があふれ出す。そんな状況について書いた連載第2回の「中年とSNS」がオンラインに転載されるや、またたくまにシェアされ大反響を呼んだ。

「『炎上』したのかとびっくりしました。どちらかというと、男性の方が怒っていた印象です。SNS、私自身は書き込むことはしないけれど、見るのは好きで、中にはどんどん壊れていく人もいます。みんな気軽にSNSをやるけど、実は危険な手段であることが忘れられがちだと思います」

 家族や仲間にやたらと「感謝」する若い人や、人前で母親をハグする青年。見ている方が恥ずかしさを感じても、やっている本人は恥ずかしくない。性の意識や善行、読んでいる本。何を恥ずかしく思うかは、人それぞれ違い、時代や世代によっても変化する。

「私が電車でこっそり人を観察するのも客観的には結構、恥ずかしいことで、繊細な人は、そんな恥ずかしさに気づいてひきこもったりするんだと思います。自分がなぜ文章を書く仕事をしているかというと、やっぱり生きていることの恥ずかしさみたいなものを表したいのかも、と思うんです」

◆取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2019年9月19日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

主演映画『碁盤斬り』で時代劇に挑戦
【主演映画『碁盤斬り』で武士役】草なぎ剛、“笠”が似合うと自画自賛「江戸時代に生まれていたら、もっと人気が出たんじゃないかな」
女性セブン
かつて問題になったジュキヤのYouTube(同氏チャンネルより。現在は削除)
《チャンネル全削除》登録者250万人のYouTuber・ジュキヤ、女児へのわいせつ表現など「性暴力をコンテンツ化」にGoogle日本法人が行なっていた「事前警告」
NEWSポストセブン
水卜麻美アナ
日テレ・水卜麻美アナ、ごぼう抜きの超スピード出世でも防げないフリー転身 年収2億円超えは確実、俳優夫とのすれ違いを回避できるメリットも
NEWSポストセブン
撮影現場で木村拓哉が声を上げた
木村拓哉、ドラマ撮影現場での緊迫事態 行ったり来たりしてスマホで撮影する若者集団に「どうかやめてほしい」と厳しく注意
女性セブン
5月場所
波乱の5月場所初日、向正面に「溜席の着物美人」の姿が! 本人が語った溜席の観戦マナー「正座で背筋を伸ばして見てもらいたい」
NEWSポストセブン
電撃閉校した愛知
《100万円払って返金は5万円》「新年度を待ったのでは」愛知中央美容専門学校の関係者を直撃、苦学生の味方のはずが……電撃閉校の背景
NEWSポストセブン
遺体に現金を引き出させようとして死体冒涜の罪で親類の女性が起訴された
「ペンをしっかり握って!」遺体に現金を引き出させようとして死体冒涜……親戚の女がブラジルメディアインタビューに「私はモンスターではない」
NEWSポストセブン
氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
”うめつば”の愛称で親しまれた梅田直樹さん(41)と益若つばささん(38)
《益若つばさの元夫・梅田直樹の今》恋人とは「お別れしました」本人が語った新生活と「元妻との関係」
NEWSポストセブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン