スーパーハイトワゴンが売れている要因はひとえにスペースの豊かさにある。排気量0.66リットルの小さなパワートレインをフロントの端に追い詰め、室内長を限界まで大きく取った設計により、前後方向のゆとりは普通車のリムジンモデルも青くなるほどだ。そこにユーザーは価値を見出している。
一方でプレミアム軽が訴求すべき価値は上質感、快適性、ファッション性などである。それが売れなくなったということは、ユーザーがN ONEやキャストスタイルの持つそれに価値を見出さなくなったからだろう。通用していたのはプレミアム軽という目新しさに興味を持たれていた一時期だけだったのだ。
しかし、これをもって軽自動車の付加価値追求はそもそも成立しないと考えるのは早計だ。上等に見えるクルマ作りという発想が響かなくなっただけの話で、スーパーハイトワゴンの商品性の源である広大な室内空間と同じくらいユーザーに欲しいと思わせるパワーを持つ何かを持たせることができれば、プレミアム軽というジャンルはこれからも消えずに済むだろう。
ただし、自動車メーカーにとってその“何か”を考えるのは大変なことだ。
クルマの上質感、ファッション性として普通にイメージされるような作り込みや工夫は、現行のN ONEやキャストスタイルですでに相当なレベルで行われている。それがユーザーに飽きられているという状況を打破するには、こう作ればユーザーは上等だと感じるはずというこれまでの経験則の一歩上を行く新発想が要求されることは言うまでもない。
軽自動車でそんな面倒なビジネスをやるよりは、人気のスーパーハイトや一定の数が出る廉価な軽セダンだけをやるほうが、自動車メーカーにとってはずっとプレッシャーが小さいはずだ。また、大きな室内容積を持つスーパーハイトワゴンのように実用上のメリットを提供するわけでもないのに高価というのは、簡素なモビリティという軽自動車の本分から外れるという批判も食いかねない。
いくら軽自動車であってもちょっぴり違うものが欲しいというユーザーの願望を満たすクルマを生み出せれば、市場の多様性は広がり、商売的にも活気が出る。果たして軽の付加価値向上の新たな一手を思いつくメーカーが出てくるかどうか、今後の展開が興味深いところだ。