北アイルランドのなかにはカトリックが多数を占める地域もあることから、共和国成立以降も、イギリスからの分離独立と共和国への帰属を主張するIRA(アイルランド共和国軍)を中心に、テロをも辞さない抵抗運動が続けられた。収監者によるハンガーストライキで多数の死者が出るなど世界中から注目を集めた時期もあるが、1998年に和平合意に至ってからはおおむね平穏な日々が続き、同じEU加盟国ということで、国境検問所も撤廃されていた。

 このような歴史的背景があるにもかかわらず、ラグビーのアイルランド代表は南北に分かれる以前の1875年からずっと存続してきた。

 今後、ブレグジットが成立した場合、国境をまたぐすべての道路に検問所と税関を設置するのかどうかについて共和国側との交渉が合意に至っていないため、現地住民は苛立ちを募らせている。和平合意成立以降に整備された道路はすべて、国境が複雑に入り組んだところでも最短距離で行けるようになっているので、そのすべてに検問所と税関が設置されれば不自由極まりなくなる。

 通勤や買い物のたびに出入国手続きをしなければならないなど馬鹿げている。このため北アイルランドでもかつて例のない共和国との南北統一を叫ぶ声が急速に高まる傾向が見られ、早ければ10月末、ブレグジットが正式決定された場合、ラグビーのアイルランド代表にも影響しそうな大きな騒動が北アイルランドで起きることは避けられそうにない。

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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