子役時代から含めて六十年近いキャリアになる。その間、絶えずドラマや映画の一線に立ち続けてきた。
「僕は右肩上がりだったことがないんですよ。平行よりちょっと下向きくらいかもしれない。そういえば、いつもいるな──と思われるような状況が居心地がいいと思いますね。そんな中でたまに『三国志』みたいに変わったことをさせてくれる方がいると嬉しいな、みたいな。
そういう、可能性を見出してくれる人がいたのは僕の中でモチベーションになっています。山田太一先生もそうで、ホームドラマやっている中でねっとりした小悪党をやらせてくださったり。そういう方々に甘えてきたというのもあります。
笹舟がポンと小川の流れに浮かべられて、それがなんだかんだで海に出ちゃう──みたいなところにいるんだと思います。その舟が転覆しないようには、なんとか頑張って漕いできたというのはあります。
そうやって流されてきた僕が積極的にやってきたことといえば、オファーをいただいたらその中で、ディレクターや監督が望んでいるものより上をやる、ということです。そうやってお返しできれば、一番いいですね。
それが難しくて。望まれているのと違うことをやってはいけないわけで。与えられたセリフ、与えられた行動の中で、自分なりの最大のものをやりたいということなんですよね」
■撮影/五十嵐美弥
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中
※週刊ポスト2019年11月1日号