年2回、生徒が好きな教員を指名して2人きりで話せる「ゆうゆうタイム」(撮影/浅野剛)
「問題児の全員を、私のクラスで引き受けることにしました。尻込みするほかの教員には、むしろ彼らを任せたくないという思いもありました」(西郷さん・以下同)
そんなリアル金八先生の世界で、西郷さんは、あっという間に生徒と打ち解けていった。クラスが一丸となって、文化祭を盛り上げたりもした。上級生が嫉妬して出し物を壊しに来たこともあったが、クラスの結束は固かった。
いわゆる落ちこぼれの男子に、女子が束になって勉強を教えた。その甲斐あって、クラス全員が無事高校に進学した。これには学校中が驚いた。
「養護学校で学んだことそのままに、素の自分で生徒に向き合おうと考えていました。毎日、ただ生徒と真剣に遊ぶように過ごしていたんです」
教員の多くは音を上げ、異動願いを出して学校を去って行く。だが西郷さんは、なぜかこの学校が好きだった。気づけば10年が経っていた。
そんな西郷さんを見込んだ人がいた。当時、やはり荒れていた別の区の中学校の校長だ。西郷さんは、この校長に呼ばれ、新たな中学校でもまた、生徒と真剣に遊ぶように過ごしていた。ところが──。
「西郷、子どもと遊ぶのもいいが、ちゃんと勉強もしろ」
そう諭され、校長はことあるごとに勉強会に西郷さんを帯同した。教育関係者にも引き合わせてくれ、論文も書くようすすめてくれた。西郷さんはそれに応えるかのように、教育関係の書物を読み漁った。
恩師ともいえるこの校長に引き立てられ、改めて教員とは何かを学び直したのだった。
※女性セブン2019年11月28日号