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【関川夏央氏書評】信頼すべき文学者が遺した真摯な言葉

『大きな字で書くこと』加藤典洋・著

 年末年始はゆっくり腰を据えて本を読む絶好の機会。2020年は果たしてどんな年になるのか? 作家の関川夏央氏が選んだ2020年を読み解く1冊は、加藤典洋氏の『大きな字で書くこと』だ。

●『大きな字で書くこと』/加藤典洋・著/岩波書店/1800円+税

 加藤典洋は若い頃から小さな字で原稿を書いた。B6サイズ四百字詰めの小さな原稿用紙に、小さいペン字で書いた。そうして加藤典洋が評論家・思想家としてデビューする前に書いた小説、その後の作品、みな長かった。人によっては五行で済ますことが百枚になったのは、思考を多方向にのばし、行きつ戻りつ自分の足元の土を踏み固めるようなこの人の方法と「小さな字」のせいだろう。

 加藤典洋は、出発時から「文学者」であった。しかし「文学の価値を以前通りに信じて成立する文学世界」には飽き足らなかった。政治も経済も国際関係も「文学」の対象だとして評論で実践した。

 やがて「小さな字」の原稿が「鍋の料理が煮詰まってくるように、意味が濃くなって」きた。「簡単に一つのことだけを書く」ためには「大きな字」が必要だと思い、二〇一七年初めから岩波書店の月刊PR誌「図書」に一ページ連載を持った。もうひとつの掲載稿「水たまりの大きさで」は、一八年春からの信濃毎日新聞の月一回連載で、「手で抱えられる広さと、足で飛び越えることのできる幅」で考える決意をしめす。

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