国内

『正義のYouTube広告』が持つ発信力について考えてみた

1本の動画が世の中を動かす時代に

 動画サービスが子供たちに与えている影響はおそらく大人の想像以上だ。動画を通じて今年も多くの注目の人物や事象が生まれたが、来年はさらに増えていくだろう。コラムニストのオバタカズユキ氏が指摘する。

 * * *
 ネットの動画好きには、「それ、知ってる!」とかなりの確率で認知されているだろう。このところ、あべりょうの新曲『正義のYouTube広告』が脳内でぐるぐる再生されて困っている。

 男性シンガーソングライターであるあべりょうの存在を知ったのは、遅まきながら今回が初めてだ。たしか立川談志の落語を聞こうとユーチューブを開いたときのこと。お目当ての動画を再生しようとしたら、その直前に流れるインストリーム広告で半強制的に曲を聞かされた。そして、「な、なんだこの歌は?」とたじろぎ、広告スキップをせずに、最後まで視聴してしまった。

 まず、『正義のYouTube広告』は、イントロなしでいきなりこんな固有名詞を連呼するところから始まる。

〈日立市立上諏訪小学校5年生の○○○○が●●●●をイジメています〉
〈豊田市立羽生小学校6年生の□□□□が■■■■をイジメています〉

 それでもって、〈拡散希望 拡散希望 今すぐ助けなきゃ〉と急き立て、〈だからボクは東京オリンピックの開会式の朝に〉〈205カ国の参加国の数だけイジメている奴を〉〈正義のYouTube広告でぶっ飛ばすぜ〉とぶち上げる。

 いったいこの曲はなんなのか。東京五輪開会式の朝に予定している「犯行」予告なのか。

 そうだとしたら、なぜユーチューブを運営するグーグルがそんな過激な広告を許可しているのか、と思い、さっそく小学校名をググってみると、両校とも現存はしていない。○●□■とした部分は、いかにも今どきの小学生にいそうな具体的な氏名なのだが、それらも適当につけたものだろう。

 そりゃそうしないと、すぐに広告配信中止となるに決まっているから。でも、ならばあべりょうは、この危なっかしい歌で何を視聴者に伝えたいというのだろうか。

『正義のYouTube広告』は、ユーチューブの広告を使って、学校名とイジメている子供とイジメられている子供の実名をさらし、イジメられている子供を救うぞ、という内容の歌である。〈イジメていた奴らの人生なんか知ったことじゃないのさ〉とのことで、〈彼の命を助けられるのは目撃した君だけだぜ〉と、イジメを傍観している第三者に行動を促している。ポップで爽やかな曲調でもって、そういうことを歌い上げている。

 では、やっぱりこれは大胆にして危険な扇動歌なのだろうか。いや、そうではないだろう。なぜなら、しょっぱなの固有名詞連呼からしてバーチャルなものであり、もし東京五輪開会式までに、この曲に触発された「目撃者」たちがイジメ情報をあべりょうのもとに続々届けたとしても、それが実際に使われて「広告」として流れることは絶対にありえないからである。グーグルさんがそれを許すわけがないのである。許されることがないと承知の上でこの曲は作られ、配信されているのだ。

 となれば、あべりょうの目的は、むしろこの曲に触発されて行動したくなっちゃうような「正義」のあり方を皮肉っているのか。ちょっと考えれば、『正義のYouTube広告』が予告するところの「広告」は現実に流れないわけで、なのに脊髄反射的に「やれやれ!」と盛り上がってしまう「正義マン」の浅はかさをあぶり出そうというわけか。

 その可能性は高いと思う。何度もリフレインされる〈正義のYouTube広告をぶっ放すぜ〉というフレーズ。ぶっ放したら気持ちいいだろ~、たしかに~、と歌詞をまんま受け取ってしまうおっちょこちょいさんを嗤っている感じもある。視聴者のリテラシーっていうんですか、そういうものを試そうとしている歌、だともいえる。

 だが、しかし、だ。だとしても、後味が悪い。もし、正義の危うさに警鐘を鳴らす歌ならば、最後の最後に、たとえば「~という正義をぶっ放すボクこそがイジメ側の人間なのさ」とか、オチをつけるべきなのである。でも、この歌は、煽りに煽っておいて投げっぱなし。いや、正確に言えば、曲が終わった後、以下のテロップが10秒ぐらい流れる。

〈いじめで困ったり自分や友人の安全に不安があったら 文部科学省 24時間 子供SOSダイヤル 0120-0-78310〉

 念のために、この電話番号も検索してみた。確かに文科省の該当ダイヤルのものだった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

筒香が独占インタビューに応じ、日本復帰1年目を語った(撮影/藤岡雅樹)
「シーズン中は成績低迷で眠れず、食欲も減った」DeNA筒香嘉智が明かす“26年ぶり日本一”の舞台裏 「嫌われ者になることを恐れない強い組織になった」
NEWSポストセブン
テレビの“朝の顔”だった(左から小倉智昭さん、みのもんた)
みのもんた「朝のライバル」小倉智昭さんへの思いを語る 「共演NGなんて思ったことない」「一度でいいから一緒に飲みたかった」
週刊ポスト
陛下と共に、三笠宮さまと百合子さまの俳句集を読まれた雅子さま。「お孫さんのことをお詠みになったのかしら、かわいらしい句ですね」と話された(2024年12月、東京・千代田区。写真/宮内庁提供)
【61才の誕生日の決意】皇后雅子さま、また1つ歳を重ねられて「これからも国民の皆様の幸せを祈りながら…」 陛下と微笑む姿
女性セブン
筑波大学・生命環境学群の生物学類に推薦入試で合格したことがわかった悠仁さま(時事通信フォト)
《筑波大キャンパスに早くも異変》悠仁さま推薦合格、学生宿舎の「大規模なリニューアル計画」が進行中
NEWSポストセブン
『世界の果てまでイッテQ!』に「ヴィンテージ武井」として出演していた芸人の武井俊祐さん
《消えた『イッテQ』芸人が告白》「数年間は番組を見られなかった」手越復帰に涙した理由、引退覚悟のオーディションで掴んだ“準レギュラー”
NEWSポストセブン
10月1日、ススキノ事件の第4回公判が行われた
「激しいプレイを想像するかもしれませんが…」田村瑠奈被告(30)の母親が語る“父娘でのSMプレイ”の全貌【ススキノ首切断事件】
NEWSポストセブン
NBAレイカーズの試合観戦に訪れた大谷翔平と真美子さん(AFP=時事)
《真美子夫人との誕生日デートが話題》大谷翔平が夫婦まるごと高い好感度を維持できるワケ「腕時計は8万円SEIKO」「誕生日プレゼントは実用性重視」  
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長。今年刊行された「山口組新報」では82歳の誕生日を祝う記事が掲載されていた
《山口組の「事始め式」》定番のカラオケで歌う曲は…平成最大の“ラブソング”を熱唱、昭和歌謡ばかりじゃないヤクザの「気になるセットリスト」
NEWSポストセブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン