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『正義のYouTube広告』が持つ発信力について考えてみた

 このダイヤル情報を流すことで、曲が真面目にイジメ問題解決に取り組むものであるということを示しているのか。形式的にはそういえるだろう。けれども、はたして実際にイジメで困ったり自分や友人の安全に不安がある子供たちが、この曲で「そうだ、ダイヤル相談すればいいんだ」という気持ちになるだろうか。

 文科省の電話相談に持ちかければきっと困りごとが解決する、と考えるようなマジメな子供は、扇情的で露悪的ともいえる『正義のYouTube広告』をまるまる聞かされた段階で、

「なんか、気分の悪くなるものを聞いちゃったな……」となると思う。この曲でやる気が出たりするのは、先述のように「正義マン」的な子供たちくらいで、他の大多数の視聴者は「なんだったんだ今の歌は?」「なんか妙なもの流れてたな」「お笑い動画で和むつもりが台無しだよ」という感じになるのではないだろうか。

 なのに、この曲を私が放っておけないのは、その発信力の高さがすごいからである。『正義のYouTube広告』は12月20日に投稿され、それからまだ1週間も経っていない当原稿執筆時点で、もう910万回以上も再生されている。1000万回到達も秒読みである。すさまじい発信力である。

 ユーチューブのお金まわりについては詳しくないが、この曲はほとんどの場合、動画再生の直前に流れるインストリーム広告として視聴されているはずだ。飽くまで「広告」であるから、再生されればされるほど、お金は広告主である「あべりょう」サイドが払わなければならない。もし、1回再生あたり1円の広告料がかかるとしたら、もうすぐ1000万円の投資という計算になる。 

 なんのため? さほどメッセージ性のある曲でもないし、さっぱりわからない。これはとにかく自己顕示欲の高いあべりょうが、IT長者のスポンサードを受けて作ったお遊び歌なのだろうか。あるいは、あべりょう自身がトレーダーとかで大金持ちで、歌はストレス解消のためにやっている趣味みたいなものなのだろうか。

 あべりょうに関してネットで調べてみても、その正体は、まったく見えてこない。ただ、我々がわかるのは、これまで三桁の数のシンガーソングライティングをこなしてきた人で、その歌のほとんどが社会問題を題材にしていることだ。

 学歴社会、地球温暖化、人口減少、バリアフリー、イノベーション、教育改革、エコロジー、国会前デモ……ありとあらゆる社会問題ネタが歌われている。スタンスは右とも左とも言い難い。あえていえば、右も左も世間の良識も大衆の欲望も皮肉り倒す系アングラ歌手。でもって、たまにインストリーム広告で曲を大々的に流し、そのたびに「表現が露骨だ」「不快だ」「やめてくれ」とアンチを沸かせることに長けている人。

 ネット社会にはいろんな表現者がいるんだなあと思う。あべりょうの場合、皮肉屋以上のメッセージ性があまり感じられないのだが、曲がなぜか脳内に残りやすい。特に原稿を書くために何度も繰り返し聞いた『正義のYouTube広告』は、目をつぶっただけで勝手に歌声が流れてきて私を困らせている。

 多様性を重んずるべき時代に我々は生きているので、いろんな表現者がいていいのだが、そのぶんノイズもでかいよなあと思う。みなさんとこの妙な気持ちを共有したいので、未視聴の方はぜひ『正義のYouTube広告』を再生してみていただきたい。

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