【著者に訊け】高山羽根子氏/『如何様』(イカサマ)/朝日新聞出版/1300円+税
〈戦地から帰ってきた男が別人にしか見えない〉──。
出征前とは似ても似つかぬ姿で世田谷区北沢のアトリエ長屋に帰ってきた水彩画家〈平泉貫一〉。彼にアトリエを貸す美術系出版社の〈榎田〉に頼まれ、〈私〉は探偵の真似事をする羽目になる。そして貫一の顔を見ることもなく出征後に嫁いだ妻〈タエ〉や、たとえ姿形は別人でも息子が戻った事実に涙する老父母、長年の愛人〈金城クマ〉や元上官らに会い、真偽を確かめようとするが、話を聞けば聞くほど焦点はぼやけていくのだった……。
そんな戦後の混乱期にはありがちな成りすまし事件簿に見せて、虚と実を巡る思わぬ境地に読者を誘うのが、高山羽根子著『如何様』だ。そもそも彼を本物だと言う人も偽物だと言う人も確たる根拠はなく、〈本物と偽物になんのちがいがあるというのか〉と問われても答えに詰まる人がほとんど。にも拘わらず〈同じものがふたつ以上あると、ひとつを本物、残りを偽物と決めないと落ち着かない〉のが人間でもあり、この世界の頑丈でも盤石でも全くない足元に、貴方は戦慄する? それとも解放される?
多摩美大時代は日本画を専攻し、絵の人でもある。
「昔の人が字と絵の別を越えて何かを表現したように、私も今はたまたま字で書いている、くらいの感覚です」
既成のジャンルに留まらないその作品群は当初から評価が高く、昨年は芥川賞にも2回連続でノミネート。取材中も手書きの創作ノートを繰り、「そうだ、あの時はまた新しいお札が出ると聞いて、小田原まで工場見学に行ったんです」「これは別の時に……」と、日頃から気になる事象を書きとめては、パッチワークのように物語に紡いでいく創作手法について語ってくれた。
「自分でもなぜそれが気になったか後で見返すとわからなくて、捨てるモチーフも多いんですけどね(苦笑)。