「元々夫の別人疑惑に興味が薄いタエに、主人公は結局引きずられたとも言えて、これってよく考えるとホラーなんですよ。ミイラ取りがミイラになった、的な(笑い)。ただ、ミイラになる意外な心地よさもあるかもしれないですよね。
私はどんな作品でもそれを読んだ労力に見合う何らかの景色を、読者の方には見ていただくことを重要視しています。この髭ダンスのシーンからも何らかの見晴らしを感じていただければと。この探偵は華麗に謎を解くどころか泥沼に自らハマるタイプですが、“狸が頭に葉っぱを乗っけて化けたけど、よく見ると尻尾が出てる”みたいな物語が個人的にも好みなんです。探偵物と思いきや全然違うとか育児エッセイに見せてダークな小説とか、入口と出口が全然違う物語が。どこかに連れて行かれる体験をしていただきたいです」
この曰く言い難い魅力は、読んで触れていただくしかないが、不確かとは自由や豊かさのことでもあると、読後は見晴らしがまた一つよくなること、請け合いだ。
【プロフィール】たかやま・はねこ/1975年富山県生まれ、神奈川県育ち。多摩美術大学美術学部絵画学科卒。2010年「うどん キツネつきの」で第1回創元SF短編賞佳作を受賞し、2014年に同収録作で単行本デビュー。2016年「太陽の側の島」で第2回林芙美子文学賞を受賞し、昨年は「居た場所」と「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」が2回連続で芥川賞候補となるなど、目下注目の気鋭。本書は表題作の他に「ラピード・レチェ」を所収。著書は他に『オブジェクタム』。159cm、AB型。
構成■橋本紀子 撮影■国府田利光
※週刊ポスト2020年2月7日号