夏葉社は売れそうだからと本を出すことはなく、何度も読み返される本を目指す。だから島田さんが本当に面白いと思う本しか作らない。装丁にも心を砕く。今はやりのデザインより5年後も生き生きと見えるもの。長年使われるカバンや食器のモノ作りに近い。
ネット時代の今、出版界は苦戦中だ。スピードではかなわない。島田さんは、本はゆっくり物事を考えるためのツールだと言う。カフェに入ってケータイの電源を落とし、30分本を読む。
「文字を追いながらも頭のどこかで子供のこと、自分の将来のこと、今朝、幼稚園で会ったお母さんとうまくしゃべれなかったことなどを考えている。そういう静かな時間を持つと、何かが回復して、少し生きやすくなる気がするんです」
驚くことに島田さんは1日5時間しか仕事をしない。午前中に原稿チェックなどをして午後は発送と事務作業。帰宅して夕方5時から10時は子供との時間。ついスマホを見てしまうのでガラケーに戻した。
「もうちょっと仕事したいな、というぐらいで帰ると、翌日も楽しく仕事できるんですよ」
自分の働き方、生き方を深いところから揺さぶられる一冊だ。
◆取材・構成/仲宇佐ゆり
※女性セブン2020年2月13日号