◆交通事情の変化と「リケジョ」の増加
中学受験の動向を見るときに、これまでも指摘されてきたのは交通利便性だ。湘南新宿ラインの開通、みなとみらい線から東横線を経由しての副都心線直通運転、さらには相鉄線からJRへの直通運転──といった交通事情の変化が受験事情も変えているのは間違いない。
今回のテーマに当てはめれば、神奈川女子御三家から池袋の豊島岡女子学園などへの志望シフトが進んだものと推測できる。池袋駅から徒歩5分という豊島岡女子学園の立地は、繁華街を敬遠したくなる家庭がある一方で、遠隔地からの通学を容易にした。
こうした交通事情に加えて、近年学力上位層の女子において「リケジョ(理系女子)志向」が強くなっていることも特徴的だ。
豊島岡女子学園は女子校の中で古くから理系クラスが文系クラスより多い学校で知られている。実際、直近の2020年春の大学合格者数を分野別に見てみると、理工分野が326名でダントツに多い。経済分野が178名、人文科学分野が123名であるから、一般の女子校とはだいぶ傾向が異なっている。医学分野も121名と多い。
以前この学校の卒業生にインタビューしたことがあるが、「小学校のときから医者になりたいと思っていたので、豊島を受けました」という人が何人もいた。受験生および保護者はこうした数字を見ているのである。さらに2019年春に国のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定され、サイエンス教育の評価が一段と確たるものになったこともシフトの要因として挙げられるだろう。
一方、神奈川女子御三家は先にも記したように、いずれもキリスト教系の学校であるため、宣教師の手になるミッションスクールは英語に強いというイメージがあった。カトリック学校の教師によって開発された「プログレス」がほぼ唯一のレベルの高い英語の副教材だった時代には、これを使用しているかどうかで学校を選択する家庭もあったほどである。
それがスピーキング力、ライティング力を含め実用的な4技能が必要とされる時代になって、英語教育におけるミッションスクールの優位性が薄れたという面もあるだろう。