芸能

三遊亭兼好に感動 爽快な余韻を残す名演『ちきり伊勢屋』

見事な『ちきり伊勢屋』の演出を解説(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、爽快な余韻を残す見事な演出だった三遊亭兼好の『ちきり伊勢屋』についてお届けする。

 * * *
 3月2日に聴いた三遊亭兼好の『ちきり伊勢屋』に感動した。随所で笑わせて最後に泣かせる逸品だ。

 麹町の質屋ちきり伊勢屋の若い主人傳次郎が易者の白井左近に「あなたは来年2月15日に死ぬ」と告げられる。店に帰った傳次郎は番頭に「これからは好きなように生きるよ」と宣言、番頭は「そうなさいませ」と優しく言う。兼好演出のポイントは、傳次郎に愛情を注ぐこの番頭の存在だ。傳次郎は店を畳むが、番頭は「私は最後まであなたのお世話をしたい」と申し出る。幼くして親を亡くした傳次郎にとって、番頭は父のような存在だった。

 番頭は傳次郎に遊び仲間として相模屋の若旦那(正太郎)と幇間(半平)を紹介する。傳次郎は金を使い果たそうとするが、遊びだけでは使いきれない。番頭は「困っている人に施しをなさいませ」と助言する。通常は白井左近が傳次郎に「来世のために施しをしろ」と言うのだが、兼好はそこを変えている。

 2月15日、自ら弔いを行なった傳次郎に番頭が「おそばにいて嬉しゅうございました」と別れを告げると傳次郎は「来世では本当の親子でいようね、頼むよ」。泣ける台詞だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン