2年後。生き延びた傳次郎が白井左近を探し当てると、左近は人相を見て「施しで徳を積んで寿命が延びた」と告げ、再会した正太郎についていけばちきり伊勢屋を再興できると予言。傳次郎と正太郎が駕籠屋を始めると最初に乗せた客が半平で、傳次郎は半平に「あなたが生きていると聞いて番頭さんは田舎から戻り、品川の山城屋という質屋に奉公しながら待ってます」と教えられる。
山城屋で再会した番頭に「番頭、番頭……」と涙ながらにむしゃぶりつく傳次郎。「はいはい、まるで子供ですな」と抱き寄せる番頭。「番頭……会いたかった」「私もお会いしとうございました」。運命が変わったのは番頭が施しをしろと言ったおかげ、と感謝する傳次郎。
番頭は主人を呼ぶ。傳次郎は2年前、身投げしようとしていた山城屋夫婦と娘の命を助け、250両を与えていた。「今があるのもあなたのおかげ、店をお譲りするのでちきり伊勢屋の看板を出してください」と申し出る山城屋に「あなた方を追い出して自分の店にするわけにはいかない」と傳次郎が言うと、番頭は山城屋の娘と傳次郎が夫婦となり親子4人でちきり伊勢屋を盛り立てるように進言。大団円を迎える。
登場人物を整理して1時間で語りきり、爽快な余韻を残す見事な演出。素直な傳次郎と包容力のある番頭の人間像が印象的な名演だった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2020年4月24日号