ステイホームの状況、どうせならテレビ番組の中により多くの楽しみを見出していきたいところである。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏がレコメンドする。
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コロナ感染拡大の影響で、4月開始のドラマの撮影が軒並みストップし、なかなか先のメドも立たないという危機の中。「オトナの土ドラ」シリーズ『隕石家族』(土曜午後11時40分フジテレビ系)が気を吐いています。すでに撮影は完了、予定通りに放送できている希有なケースとか。
しかも、ドラマのテーマが奇しくも現在の危機と二重写しになっていることが、あまりにも不思議です。
物語は……地球にむけて巨大隕石が接近し、半年で滅亡する運命という設定。羽田美智子演じる主婦・門倉久美子は自分もあと半年の命だと自覚したとたん、「私には好きな人がいます!」と高校時代の初恋の人のもとへ走り、「主婦を卒業する」と宣言。そうした久美子の過激な行動が、家族の関係を揺さぶっていく。夫の和彦(天野ひろゆき)はひどいマザコンでいまだに母・正子(松原智恵子)にどっぷりと依存しているが、その和彦もマザコンを脱却しようともがき……。
何とも奇妙な舞台設定で一見すると笑いを誘うナンセンス・ドラマですが、「想定したこともない出来事が起こる」というのは、今や世界中の人が受け止めている現実。仏語「シュルレアリスム」略して「シュール」は、日本語で「超現実」と訳されますが、この作品はまさしくシュールなドラマと言えるでしょう。
ドラマ世界の「シュールさ」をしっかりと支えているのが二人の正統派美人女優です。松原智恵子さんと羽田美智子さん。ともに文句なしのすらりとした美人で白い肌に目許涼しく鼻筋が通ってい美しい歯並び。恋愛ドラマならヒロイン、時代劇ならお姫様といった役どころをまずはイメージさせる二人。
ご存じ松原さんは75才と大ベテランですが、その清楚で可憐な美しさは「日活三人娘」として人気を集めた頃から不変です。ところが……今回のドラマの中では、何と着物姿のままでヘルメットをかぶりバッティングセンターでバットを振り回す。それも涼しい顔で……実にシュールな絵です。
一方、「主婦卒業」を家族に宣言し、とんでもない行動に走る久美子役・羽田さんも、くったくのない笑顔でハチャメチャに暴走していくあたり、超現実味を出しています。小松江里子氏のこの脚本は「限られた時間の中でいったいどう生きたいのか、生きるつもりか」を問いかけてきますが、「美形」「お姫様」「明眸皓歯(めいぼうこうし)」といった定型の殻を思い切り脱ぎ捨て羽を伸ばして自由になろうとする女優たちの意気込みが、ドラマの問いかけの一つの回答であり見所になっています。