国内

安倍首相の言う日本モデルこそ「自己奉仕バイアス」の極み

緊急事態宣言解除は誰のお手柄?(時事通信フォト)

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、安倍首相の緊急事態宣言解除会見で、どうしても気になったことについて言及。

 * * *
「まさに日本モデルの力を示したと思います」

 25日、安倍首相は緊急事態宣言の全面的解除を表明し、感染拡大防止の取り組みを“日本モデル”と評価した。

“日本モデル”って、そんなモデルありましたっけ? 聞いた瞬間、首を傾げた。

 首相の会見によると、「我が国では、緊急事態を宣言しても罰則を伴う強制的な外出規制などを実施することはできません。それでもそうした日本ならではのやり方で、わずか1か月半で今回の流行をほぼ収束させることができました」ということで、諸外国のようにロックダウンなどの強行措置を取ることなく、ほぼ収束状態にこぎつけたことを“日本モデル”と表現したようだ。

 けれどこれ、モデルとなるよう政権があらかじめ計画したことでも意図したものでもなく、法律的に強制できなかったため、そうせざるを得なかったということではなかったっけ? だから首相はお願いしますと連呼し、都道府県の知事たちは大型連休前、あれだけ必死になって自粛や休業要請を叫んでいたのではなかったの?

 いつから日本モデルなどという感染拡大防止・対策モデルができていたのだろう? そんな、日本モデルという言葉自体にモヤモヤしてくる。

 安倍首相は続けて「全ての国民の皆様のご協力、ここまで根気よく辛抱してくださった皆様に、心より感謝申し上げます」と述べた。だが本来なら、日本モデルの力を示したのではなく、日本国民の力を示したという意味で謝意を伝える方が正しかったのではないだろうか。

 安倍政権のコロナ対策はすべてにおいて遅い、遅れていると非難されてきた。メディアではPCR検査数の少なさに批判が集中、公表されている感染者数が懐疑的なことは国民の誰もが知っている。

 アベノマスクは不良品だったり、小さすぎたり、未だに届いていない地域すらある。国民一人に10万円給付とぶち上げたが、マイナンバーでのオンライン申請に役所は混乱、郵送の申請書類は未だに届かない。休業要請の支援金も協力金も、支給率はわずか数%。倒産におびえる中小企業にとっては猶予がない状況だ。

 なのに、日本モデルとして政権の取り組みのごとく自画自賛。その効果を強調するというのはどこかおかしい。安倍政権の「セルフ・サービング・バイアス」、訳して「自己奉仕バイアス」の強さがそこから垣間見えてくる。

 セルフ・サービング・バイアスとは、成功は自分の手柄で失敗は人のせいにしやすい傾向のこどだ。この傾向が強いと、成功したときは自分の能力や努力のおかげで成功したと思うが、失敗したときは他人や状況、環境のせいにして自分には責任がないと思いやすい。そういえば安倍政権は、これまでどんな問題が起きてもいつのまにか責任を逃れてきているという印象しかない。

「日本の感染症への対応は、世界において卓越した模範」とグテレス国連事務総長が評価し、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長も日本の対策を成功と評価したというほど、感染者数と死者数は少ない日本。外から見たら政権を評価できるのかもしれないが、内にいると政権の対策のおかげとは正直言えない。

 感染拡大を抑えたのは日本人の国民性や生活習慣、協力し助け合いながら頑張ってきた国民の我慢と努力の賜物だろうし、死者数が少ないのは優れた医療体制や疲弊しながらも闘ってきた医療従事者らのおかげだ。今現在、政権の対策が功を奏した、政府に助けられたと思う人は、この国にいったいどれほどいるのだろう?

「ここから先は発想を変えていきましょう」と国民に呼びかけた安倍首相に一言。新たな日常をつくり上げるため、ここから先は政権も発想を変えていきましょう。

関連記事

トピックス

NBAレイカーズの試合観戦に訪れた大谷翔平と真美子さん(AFP=時事)
《真美子夫人との誕生日デートが話題》大谷翔平が夫婦まるごと高い好感度を維持できるワケ「腕時計は8万円SEIKO」「誕生日プレゼントは実用性重視」  
NEWSポストセブン
被害者の村上隆一さんの自宅。死因は失血死だった
《売春させ、売り上げが落ちると制裁》宮城・柴田町男性殺害 被害者の長男の妻を頂点とした“売春・美人局グループ”の壮絶手口
NEWSポストセブン
元夫の親友と授かり再婚をした古閑美保(時事通信フォト)
女子ゴルフ・古閑美保が“元夫の親友”と授かり再婚 過去の路上ハグで“略奪愛”疑惑浮上するもきっぱり否定、けじめをつけた上で交際に発展
女性セブン
突然の「非常戒厳」は、国際社会にも衝撃を与えた
韓国・尹錫悦大統領の戒厳令は妻を守るためだったのか「占い師の囁きで大統領府移転を指示」「株価操作」「高級バッグ授受」…噴出する数々の疑惑
女性セブン
12月9日に亡くなった小倉智昭さん
小倉智昭さん、新たながんが見つかる度に口にしていた“初期対応”への後悔 「どうして膀胱を全部取るという選択をしなかったのか…」
女性セブン
六代目山口組の司忍組長。今年刊行された「山口組新報」では82歳の誕生日を祝う記事が掲載されていた
《山口組の「事始め式」》定番のカラオケで歌う曲は…平成最大の“ラブソング”を熱唱、昭和歌謡ばかりじゃないヤクザの「気になるセットリスト」
NEWSポストセブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
無罪判決に涙を流した須藤早貴被告
《紀州のドン・ファン元妻に涙の無罪判決》「真摯に裁判を受けている感じがした」“米津玄師似”の男性裁判員が語った須藤早貴被告の印象 過去公判では被告を「質問攻め」
NEWSポストセブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
結婚披露宴での板野友美とヤクルト高橋奎二選手
板野友美&ヤクルト高橋奎二夫妻の結婚披露宴 村上宗隆選手や松本まりかなど豪華メンバーが大勢出席するも、AKB48“神7”は前田敦子のみ出席で再集結ならず
女性セブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン