ここまでの事実関係を整理すると「自虐史観」という言葉のルーツは確かに右派系論壇誌にあるのは間違いないが、松山のようにリベラルメディアでも使う論客はいた。

 それを歴史教科書批判に加えて、右派の側から「改革すべき対象」という意味で確定させ、意識的に使ったのが、「新しい歴史教科書をつくる会」の中核メンバーで、東京大学教授(当時)の藤岡信勝だった。彼は1996年1月11日の産経新聞で「自虐史観・暗黒史観」という言葉を使って教科書の歴史観を左派的であると批判し、自身が提唱する自由主義史観の意義を語っている。

 藤岡は取材を受けたり、つくる会の準備に奔走したりする中で自虐史観という言葉が持っている「強さ」を前面に押し出すようになる。自虐史観の使用頻度を増やしていき、1997年9月には『「自虐史観」の病理』(文藝春秋)という著作を出すに至る。百田に連なる「自虐史観」は、ここで意味を確立したとみていい。

 攻撃的な言葉は使われるたびに威力を増していく。この前後の産経新聞は藤岡への期待を寄せた論考を多数掲載しているが、自虐史観という言葉は、藤岡への注目と比例して、右派メディア上でもリベラル派、左派を攻撃する言葉としてかつてないほどの広がりを見せる。

 この「自虐史観」は、1996年からスタートした「新しい歴史教科書をつくる会」の運動の結節点となった。藤岡は私のインタビューで、つくる会の特徴をこう振り返った。

「左翼の用語を使えば、これは統一戦線運動なんです。細かい考えは違っても、共通する一致点で力を合わせようというのは、教科書問題ならばできる。教科書問題は、いろいろなテーマの中で最も団結しやすい、まとまりやすいテーマなんです」

 団結を深めるためのキャッチフレーズ、それが「自虐史観」だったのだ。

※石戸諭著『ルポ 百田尚樹現象 愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)より再構成。

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