注文した覚えが無いカニが届いた

注文した覚えが無いカニが届いた

 この「どうしても欲しくて転売屋からでも買う」という気持ちに漬け込むのが、詐欺師である。金井さんはゲーム機の購入時、転売屋に自宅住所と電話番号、メールアドレスを知らせているが、その後、思ってもみなかったトラブルに巻き込まれることになる。

「年明けすぐに届いたのはカニでした。代引きだったために妻が支払ったんですが、私には注文した覚えはない。送り主に電話するも注文があったの一点張り、生鮮品で金も払っているしそのまま食べました。すると今度は、証券会社からFX講座を開かないかとか、不動産屋から投資用マンションを買わないかと毎日5本以上電話がかかってくるように……。3月にはマスクと消毒剤が一方的に代引きで送られてきたんです」(金井さん)

 家にかかってきた「○○市場」などと名乗る電話で「カニはお好きですか?」と聞かれ、好きですよと答えると代金引換の宅配便でカニが送りつけられる「カニカニ詐欺」は、年末年始に増える魚介類送りつけ商法のひとつだ。購入するとは言っていないので、たとえ代引きでも支払い義務はないのだが、生鮮食品だと受取人が慌てて払ってしまうという被害が続出している。この詐欺は十年くらい前から全国で被害報告が相次ぎ、何度も注意喚起されている。金井家に起きたことは、そこをさらに一歩進み、住所と名前を把握している人にいきなりカニを送りつける乱暴なカニカニ詐欺だ。転売屋を利用するような家庭はどこからの荷物か不明な宅配便も、あまり疑わずに受け取ってしまうと足もとを見られたのだろう。

 同じようなパターンでマスクと消毒剤も送りつけられたようだが、この時は金井さんが対応し、身に覚えがないと受け取りを拒否した。振り返ると、怪しい送りつけや鳴り止まない勧誘電話は全て、転売屋からゲーム機を買った後から起きた。前出の江崎氏は、それらの出来事は転売屋の顧客情報が売られている証拠だと指摘する。

「転売屋だとわかっていて利用する人たちは、結局脇が甘いんです。冷静に考えれば、グレーな商売をしている人に、自らの名前や住所、電話番号に口座番号まで教えたいわけがない。それなのに、物欲に負けて買ってしまう。こういう顧客はリスト化され、あらゆる場所で共有される。転売屋はもちろん詐欺師にも」(江崎氏)

 つまり江崎氏が言うには、転売屋は法律を真面目に守っているのではなく違法ではないスレスレを狙っているのだから遵法精神に欠けている。それを利用したことがある客も、自分は欲しいものを買っただけだし誰にも迷惑をかけていないと言うが、市場を平穏に保つために暗黙の了解として守って当たり前とされる商習慣を破っているから、やはり遵法精神に欠けたところがあると言わざるを得ない。さらに、転売がどういう商売かも承知しているから実は後ろめたい気持ちも少しある。違法では無いがグレーなことでも黙って得すればいいじゃないかという浅ましい気持ちは、心の隙間を生み出す。そこを狙って、詐欺師は次のような手法で客の資産を根こそぎ奪いにかかるという。

「よくあったのは人気アーティストのチケットを優先的に販売するなどのダイレクトメールを何通か、転売屋の利用客に送っておくパターンです。そのあと別人を装いチケットを買い取るなどのメールを送る。客は、先に届いていたダイレクトメールを思い出し、チケットを購入して転売すれば儲かると考えます。転売屋を利用した客は、転売のうまみを知っているから飛びつきやすい」(江崎氏)

 江崎氏によれば、チケットでなくともその時々に人気があるもの、需要があるものなら何でもこうした架空の儲け話に利用されるという。需要が増しているマスクの工場をつくるためとうたって出資をつのる「マスク投資」詐欺も同じで、転売屋を利用した客に投資の案内が回されたという。「転売屋を利用しただけで」新たな被害に遭ったり、事件に巻き込まれる可能性は今も高いと断言できる。違法じゃないからいいだろう、そう思う「隙」を突いてくるのが連中だ。改めて、「転売ヤー」を利用しないよう、注意を促したい。

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