「鈴木さんは民団(在日本大韓民国民団)で事務局長を長く務めた人物で、同胞のために尽くしてこられた方です。彼は周囲から大反対を受けたのですが、『どうしても死ぬ前に話さないといけない』と私のインタビューに何回も応じて頂きました。『伍長として炭鉱で働く父を誇りに思っていた。(朝鮮人だからと)いじめにあったことはなく、むしろかわいがられた』などと語ってくれました」
センターに展示されている松本氏や鈴木氏の証言に反発したのは、やはり韓国だった。康京和・韓国外相はユネスコに対して世界遺産登録取り消しを求める書簡を送ったことを発表。韓国メディアも「日本、ユネスコ合意破り軍艦島の強制労働を隠ぺい」(6月15日付 朝鮮日報)などと猛バッシングを繰り広げた。
「韓国メディアは自分たちが気に入らない証言が展示されていることに腹を立てているようです。日本人も朝鮮人もみな仲が良かったというのは、韓国メディアにとって『内鮮一体(日帝時代のスローガン)』論に繋がるタブー。でも、元島民たちは彼らの人生を語っているだけなのです。それを“歴史修正主義”と言われてしまうのは悲しいことです」
加藤氏は安倍晋三首相とは幼馴染で家族ぐるみの付き合いがあり、安倍政権下では2019年まで内閣参与職も務めた。こうした関係から、韓国メディアから「軍艦島歴史歪曲展示館、センター長は安倍首相の側近」(6月22日付 朝鮮日報)などと批判を受けている。
「総理からセンターについて指示を受けるということはまったくありません。むしろ官邸や官僚からは『加藤は勝手なことをする』と思われている(笑)。私は“嫌韓”ではありません。在日の方にも多く応援頂いています。最初にお迎えしたお客様は駐日韓国大使ですし、YTNや聯合ニュース等の韓国メディアの取材も積極的に受けています。日韓関係はお互いに正しいことは正しいと言い合える関係になってこそ、信用とか尊敬が生まれる間柄になれると私は考えています」
新たな日韓歴史論争の行方が注目される。
【PROFILE】赤石晋一郎(ジャーナリスト)/「FRIDAY」「週刊文春」記者を経て2019年よりフリーに。南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。新著に『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち』(小学館新書)がある。
※週刊ポスト2020年7月24日号