千秋楽のみ寄席(4月は鈴本、5月は浅草)からの無観客生配信、他は神保町らくごカフェ。4月は毎晩1万人強、5月も7000~8000人がリアルタイムで視聴した。ちなみに『団子屋政談』とは『初天神』から大岡裁きに発展する一之輔オリジナルの改作。この『団子屋政談』を筆頭に、独自の演出で古典常識から逸脱して派手に暴れまくる一之輔に初めて出会って仰天した視聴者は「さすがに寄席じゃコレはできないだろ」などとコメントを寄せていたが、僕から見ればいたって「普段の一之輔」だった。そして、それこそが一之輔の強みである。
4月以降大量の配信落語を観てわかったのは、「無観客配信」は演者の力量や了見が残酷なまでに浮き彫りにされてしまう、ということ。未熟な演者ほど「自分の落語」が出来ていない。二度にわたる連続生配信は、その意味で一之輔の「器の大きさ」をまざまざと示したと言える。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2020年7月24日号