2011年と言えばそう、東日本大震災発生が発生した年でもあり、生死を問うようなドラマの設定や夫と息子を放火で失った三田灯(あかり)という人物像も複雑。笑わない、媚びない、色気もないという奇妙なキャラクターはまさに「難役」そのものでした。そうした主人公が如何なる人物かを深く理解して、指の先から目の表情、しぐさまで徹底して体現していく演技の力。やはり松嶋さんしか、あの役は演じきれなかったのではないでしょうか?
今回の再放送をきっかけにして「松嶋菜々子」という女優が経てきた「なでしこからミタへ」の道筋が見えたことが、私にはとても興味深かかったのです。それこそが再放送の醍醐味と言ってもいいかもしれません。
再放送で女優がたどってきた道筋が見える、という意味では、25年ぶりに地上波で放送された『愛していると言ってくれ』(TBS系1995年)2020年特別版もそう。けなげな純愛もののドラマでしたが、常盤貴子さんが演じた女優の卵・紘子のピュアな可愛らしさが印象であると同時に、芯の強さも伝わってきました。
その後、40代になった常盤さんがたとえば『京都人の密かな愉しみ 』(NHKBSプレミアム 2015-2017年)で背筋をピンと伸ばした和菓子屋の女将を好演したのも、着物姿が実に似合っていたのも、ここにルーツがあったのかと実感。「女優の卵から女将へ」という道筋について感じ入りました。
残念なのは、そうしてキャリアを重ねてきた素晴らしい女優たちが、なかなかドラマにおいて主役を演じる機会に恵まれないこと。中年女優の魅力を描き出すような企画や脚本、制作環境も日本では数少ない。彼女たちの今の力を存分に活かす方法とはどこにあるのか? コロナ禍によってドラマ界に提示された、一つの重要なお題と言えるのかもしれません。