日本人の死生観は、世界的に研究されてきたそうだ。アメリカの宗教心理学者デニス・クラスの「続く絆」理論は、日本人の墓や仏壇に対する態度から着想を得たという。親しい人を亡くしたとき、人は悲嘆に暮れる。多くの人が一刻も早く悲嘆を癒そう、忘れさせようとしがちだが、悲嘆は癒すべきものでも、乗り越えるべきものでもない、故人との絆は続かせていい、忘れなくていいという考えである。
かつての日本人は当たり前に墓や仏壇を通して先祖と対話してきた。葬儀や初七日、四十九日などの法事も、集まって故人のことを語り、遺された者の心を支えている。こうした死者と語らうプロセスのなかで、生きる力をためていったのではないか。だから、「死」と向き合うことは、生きることと向き合うことなのだろう。
こうした「死」の力についての考察を『コロナ時代を生きるヒント』(潮出版)にまとめた。終末期医療、幽霊、沖縄のユタ……いろいろな「死」が登場する。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。
※週刊ポスト2020年7月31日・8月7日号