さかもと未明氏が描いたパリ・モンマルトルの丘
今回、『日本・フランス現代美術世界展』で入選した作品は、パリのモンマルトルの丘の遠景だ(別掲)。かつてサロン・ドトーヌにも参加していた藤田嗣治の作品からも影響を受けているという。
「藤田嗣治は『乳白色の美』で有名な画家です。その作品にインスピレーションを受けて、私の好きなベージュを基調に、派手な色を使わずに描きました。この絵にたどり着くまで30枚は描いたでしょうか。ようやく私らしいしっくり来る絵が描けたので、品評会に出してみようと思いました。純粋に力試しをしたかったので、さかもと未明としてではなく、本名で応募しました。実は絵画で賞をいただいたのは生まれ初めてで、しかも憧れのサロン・ドトーヌ協賛の賞だったので、とても光栄です」
キャンバスに向かい作品を仕上げていく(撮影/木村智)
サロン・ドトーヌは、ロダンやルノワール、セザンヌらによって設立されたフランスの伝統あるサロン。日本人も前述の藤田の他、佐伯祐三や東郷青児など、名だたる画家が参加している。さかもと氏は「今後はフランスでも活躍したいと考えているので、感慨もひとしおです」と喜びを口にする。
「今回の作品で、自分の見た風景を心というフィルターを通して再構築した世界を描くことができました。小さい一歩でやっとスタート地点に立てただけですが、『画家です』とそろそろ言ってもいいかなと、自信をいただきました。
私にとって一番大切なことは、『世界って綺麗だな』と思えることなんです。思えば小さいころから色んな辛いことが多くて、死ぬことばかり考えていました。世界を美しいと感じる余裕もなかったんです。でも。絵を描きたいと真剣に思った時、世界を美しいものとして受け止められる自分に変わらなければ、美を捉えることができないと痛感しました。
絵を志したおかけで、54歳にして初めて、素直な気持ちで世界を見ることができた……つまり、生まれ変わらせてもらったと思っています。生きていて、辛いことの方が多いですから、そういうものでなく、美しいものを発見して、生きる喜びや幸せや感謝を、絵の中に投影したい。世界は自分の心次第で、いくらでも美しく見えるんです。アートには人間を再生させたリ、勇気づけたりする力があるとあらためて感じました」
画家として「商売になるとかならないとか関係のない、普遍的で純粋な表現を目指したい。人間には愚かな面もあるけど、素晴らしい面もあるということをメッセージとして伝えていきたい」と語るさかもと未明氏。漫画家から画家へと転身を遂げた後も、その挑戦はまだ続いていく──。
◆さかもと未明:1965年、横浜生まれ。1989年に漫画家デビューし、多方面で活躍するも2006年に膠原病を発症し、その後、活動を休止。一時期は余命宣告も受けたが絵画の道を志し、2017年に吉井画廊で本格的画家デビュー。『第21回 日本・フランス現代美術世界展 -サロン・ドトーヌ特別協賛-』で入選、東京・六本木の国立新美術館で8月8日~16日の期間で一般公開される。