自身も約30年前に中学受験に挑み、都内の難関校に合格した経験を持つAさんは、これまでは口を酸っぱくして「塾にいる時間だけ勉強しても意味がない。家での予習と復習を欠かしてはいけない」と娘に教えてきたという。
「ただ、さすがにこのスケジュールが何日も続くと、遅くに家に帰ってきたところで“机に向かいなさい”とは言えません。支える親の側も負担も大きいです。学校から帰ってきたタイミングで何か軽食を用意してあげないとお腹が空いてしまうだろうし、帰りは遅いから迎えにいってあげないといけない。うちは共働きで、夫婦ともに日によって出社したりテレワークだったりする職場なので、その日に都合のいいほうが娘をサポートするようにしています」(Aさん)
そうしたなかで、「学校を休ませる」という判断をする家庭もある。小学6年生の息子がいる都内在住の40代女性Bさんはこう話す。
「色々と悩みましたが、7月の最後の1週間は学校をお休みさせることにしました。コロナの休校があって1学期は友達と一緒に過ごせる時間が少なかったので、かわいそうではありますが、夏は学力の基礎を固められる最後のチャンスだと聞きました。息子は体力に自信があるタイプではないので、この暑い時期に無理して学校と塾を両立しようとして、体調を崩しては元も子もありません。学校の先生には『家庭の事情』とだけ説明しました」
ポストコロナの受験生家庭は、これまでにない問題に直面し、難しい判断を迫られているのだ。近著『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』が話題の教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏はこう指摘する。
「何より注意しなくてはならないのは、中学受験生たちに例年以上のストレスがかかってしまっていることです。受験勉強に十分な時間をかけられないのもつらいし、そのために学校を休むのもつらい、どちらにしてもストレスフルです。時間が限られるという前提は変えられませんし、どう行動するのが正解なのかは各家庭によって異なるでしょう。何のために中学受験をするのかを忘れないようにしながら、何を優先するかを決めていってほしい。どうやって子供の勉強量を増やすかという観点だけでなく、どうすれば子供がストレスを感じずに勉強に取り組める環境がつくれるかを意識するべきだと思います」
受験勉強の天王山が新型コロナの感染拡大に重なってしまった小学6年生とその親たちにとって「試練の夏」が続く。