オタクであることはこの世を生きるための武器だ
私は著書でも「オタクであれ」として、仕事以外に自分が熱中できるスペースを持つことを勧めている。誰も知らないサンクチュアリを持つことは、生きていく武器になる。
例えばコロナ禍の自粛によって、2020年の春は自宅で過ごすことを求められた。外出できない生活に苦痛を感じる人が多い中、ジャニオタの友人は、「ライブBlu-rayや録画した番組を見るだけでも、量が多いので、自粛生活だけではとても時間が足りない」と言っていたのを聞いて感心した。
何かに陶酔するのは、癒しにも強さになる。よく医療コラムで「ストレス解消には趣味で発散することが一番」といった記述を読むのは、好きなものが逃げ場にもなるという証明だ。ちなみに私、小学生からずっとテレビドラマを見続けているオタクである。なぜ好きなのかと言われても、理由は分からないからオタクなのだと思う。それがたまたま出版社の編集者さんと話しているうちに「そんなに詳しいのならドラマ評を書いてみないか」と勧められて、趣味と実益を兼ねることになった。でも今でもテレビ画面を見つめる目は、小学生の頃と変わらない。ドラマ好きの人と飲みながら話をするときは、ただただ楽しい。
そんな我が身を振り返ると、『おじカワ』の小路たちにも胸を張って推しを紹介すればいいのにと思う。男性が可愛いものを好きだからって、白い目で見てくるのなら、相手側が時代錯誤ということではないだろうか?
そう考えを巡らせていると、ふと不倫愛のことが浮かんだ。誰にも言えない秘密の恋……。残念ながら経験はないのだけど、背徳感のある恋愛は妙に燃えるものがあると聞いた。自分しか知らない(と思い込んでいる)恋愛相手の言動は、普通の男女の関係では得ることのできない貴重な宝物。ひょっとしたら、おじさんたちもそんな気持ちをどこかで楽しんでいるのかもしれない。そう思うと、隠しながら推すことも一理ある。
公表するのもいい、隠すのもいい。大事なのは生業ではないのだから、自分のやりたいようにやることだ。小路よ、そのプリミティブな気持ちを忘れないで。
【プロフィール】こばやし・ひさの/静岡県浜松市出身のエッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。