SNSによってつくられた雰囲気で申請をしようという気持ちになったとしても、ふだんは親の扶養内でアルバイトをするのがせいぜいの学生や、帳簿つけなどが習慣化しているとは思えないフリーターが、いくら簡略化されていたとはいえ持続化給付金の申請をできたことは不自然だ。もちろん、警察も大学生が手口を自分で思いついたとは考えにくいと考え、指南役がいる可能性もあると見て捜査を進めている。同じ税理士が関与しているケースの他、組織的に不正申請が行われていたケースも少なくない。大学生の間で口コミで広まり、Zoomを通して申請の仕方の説明を受けたという話もある。
国民生活センターによると、受給資格がない人たちにむけて、持続化給付金の申請を持ちかけるケースが増えている。「不審な勧誘を受けた」という相談は20~30代を中心に、会社員や専業主婦、無職などでも勧誘を受けた例も多かった。TwitterやInstagramなどのSNSを通じたものが多く、「無職でも学生でも100万円」などとうたっているアカウントもある状態だ。
5月中は同じような勧誘を受けたとする相談件数は51件だったが、7月に急増し、14日までに677件まで増加している。また、山梨県警によって大学生が逮捕された事件が報道された後、返金の申し出が増えたそうだ。詐欺の発覚を恐れたものか、報道で犯罪だと知った人もいる可能性がある。
不正申請には厳しいペナルティも
持続化給付金を管轄する経済産業省は、7月上旬より不正受給の調査を始めている。不正受給になるのは、資格がないのに偽って申請する行為の他、二重申請、売上計上を先延ばしして売上を恣意的に操作する行為、新型コロナウイルス以外での収入減での申請も該当する。
不正受給がわかった場合のペナルティは厳しいものだ。まず、支給額に年3%の延滞金を加えた額に2割を上乗せした金額を返還する必要がある。不正内容が悪質な場合は刑事告発されたり、不正内容の度合いによっては屋号やペンネームなどが公開される可能性もあるのだ。
友人に誘われてお金をもらってしまった後に、犯罪に当たると知って自分で弁済を考えているという学生もいる。この場合、指南役グループに支払った手数料は戻ってこないし、学生自身、罪に問われる可能性も残る。
このようなケースで捕まるのは、受給した学生と学生を誘った友人までで、多くの場合グループのトップの連絡先も知らないことが多い。つまりグループにとって学生たちは、不正申請をさせて手数料を巻き上げるためだけの、トカゲのしっぽのような存在なのだ。最近、SNSで受け子、出し子などの逮捕されやすい役目を募集する例が多いが、どちらもただ利用するためだけの勧誘という点が共通している。
そもそも持続化給付金は、新型コロナウイルスの影響で経済的に大きな影響を受けた事業者を対象に、事業の継続を支え、再起のために支給する給付金だ。1ヶ月の売上が前年同月比で50%以上減少している事業者を対象としており、法人は200万円、個人事業者は100万円を上限として受け取ることができる。実際に窮している事業主は少なくないので「すぐに支給されて助かった」という声も多数聞く。
コロナ禍で多くの人が、収入が減ったり、仕事がなくなったりしている。それにより、このような特殊詐欺とよく似た手口の誘いが多発し、生活に困窮する人からの応募も増えているそうだ。しかし多くの場合、お金が得られないだけでなく、罪に問われることになる。生活に困っていても、このような犯罪には手は出さず、公的補助を頼ることも検討してもいいかもしれない。