政治学者・法政大学教授の山口二郎氏
山口:戦後日本の長期政権は、小泉・安倍以前にも、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘などがありましたが、いくつかの共通点があり、その第一条件が対米追随ということだと思います。米国との関係維持は、長期政権にとって不可欠でした。
ところが、米大統領選を待たずに安倍首相が辞めたことで、予測不可能になってきました。トランプ氏再選の場合は駐留米軍の経費負担問題などで無茶を言ってくる可能性が高く、バイデン氏が勝ったほうが、日本にとっては伝統的な対米関係の延長線上で議論ができるということになるかもしれません。
佐藤:日本の外交は民主党政権時代も含めてすべて親米ですが、その度合いに違いがあります。対イラン自主外交やイージス・アショア導入中止に見られるように、安倍政権の親米度は実はそれほど高くない。安倍政権と米国は、トランプ氏との属人的な関係がありつつ、ペンタゴン(米国防総省)や国務省との関係では、日本の自主性、独立志向が見られます。これは安倍首相の祖父の岸信介政権を彷彿させます。
次の政権でそうした安倍さんのリアリズム外交が消えてしまうのが非常に不安です。よりイデオロギッシュな関係に基づく親米に変わり、米国の対イラン・対ロシア制裁に加わって、さらに中国に対しても米国内の対中強硬派に突き上げられる可能性もあります。
【プロフィール】
●さとう・まさる/1960年生まれ。作家、元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館書記官、国際情報局主任分析官などを経て現職。著書に『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞)、『知性とは何か』など。
●やまぐち・じろう/1958年生まれ。法政大学法学部教授。東京大学法学部卒業。北海道大学法学部教授、オックスフォード大学セントアントニーズ・カレッジ客員研究員などを経て現職。専門は行政学、現代日本政治論。著書に『民主主義は終わるのか』、『政権交代とは何だったのか』など。
※週刊ポスト2020年9月18・25日号