“得する繰り下げ”誘導は「70歳支給」の布石

 現在、年金は65歳支給開始だが、額が減るのと引き替えに早くから受け取れる「繰り上げ受給」と、受け取るのが遅くなる代わりに増額される「繰り下げ受給」がある。

 2022年4月以降、この制度が変更される。これまでは受給開始を1か月前倒しするごとに年金が0.5%減額され、60歳まで繰り上げた場合の年金額は30%減となっていた。その減額率が1か月につき0.4%に引き下げられる。

 厚労省がモデルとする月額約16万円の年金受給者が60歳繰り上げを選んだ場合、これまでは約11万円の受給額だったのが約12万円にアップする。

「平均余命が延びたことを考慮した変更だというが、こういうツギハギの変更をするから、制度への信頼がなくなる。すでに繰り上げを選択した人には不公平感が募ります。ただ、今回の変更でより注目すべきは『繰り下げ』のほうです」(北村氏)

 繰り下げた場合の増額は支給開始を1か月遅らせるごとに0.7%増で変わらない。ただ、これまでは最大で70歳までしか繰り下げられなかったのが、「75歳受給開始」まで選択可能になったのである。10年繰り下げた場合の年金額は、65歳受給開始と比べて84%も増えることになる。

「厚労省としては“75歳まで働いてから年金を受け取れば、もの凄く得ですよ”とアピールしたいのでしょう。実際には、受給開始を10年も遅らせられるほど資産に余裕がある人なんてほとんどいません。

 インパクトの大きい数字で繰り下げのメリットを強調することで、10年繰り下げる人はいなくても、66歳や67歳で受け取る人が増えていく可能性がある。“年金は65歳から”が常識でなくなることが、支給開始年齢引き上げの布石になると考えているのでしょう」(同前)

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