千葉県内の小学校教員・橋田桃子さん(仮名・20代)も「見えなかった虐待」に、コロナ禍を通して気が付いた。
「髪を染めて、ネイルまでしてくることで有名だった低学年の女子児童が、コロナ休み明けに髪はボサボサ、洗われた形跡のない不潔な服を着て登校してきました。どうしたの?と話を聞くが要領を得ないし、よく見ると腕や手にアザまであった。児童相談所が入っての面談も行われた結果、児童の母親が、娘を着せ替え人形のようにしか扱っていなかったことが露わになりました」(橋田さん)
母親は、どこへいくにも着飾らせた娘を連れ回していた。髪は染められ、手から足の先までネイルが施され、服も流行のスポーツブランドで統一されているし、プラダやバレンシアガといった高級ブランドのキャップやバッグを持たせられていたこともあった。ただ、コロナ禍で外に出る機会がなく、娘を連れまわせなくなった。そうなると、娘の「着せ替え」の必要がなくなるから放置されていた、というのが、児童相談所職員、担任教諭の出した結論であった。
「コロナの影響で経済状態が不安定になると、母親は児童に手もあげるようになっていたそうです」(橋田さん)
関東南部某市の児童相談所職員によれば、コロナ禍をきっかけに、虐待や育児放棄といった相談、通報の件数が増えているという。
「長期休暇明けに栄養状態が悪くなる子も、実は年々目立っているようにも現場では感じます。子供が着せ替え人形にさせられている、というような事例はよくあります。パッと見は綺麗な格好をしたお子さんでも、下着はボロボロ、見えるところばかり綺麗にさせられている。これまでは見えにくかった『綺麗な被虐待児童』たちが、コロナ禍をきっかけに可視化された」(児童相談所職員)
こうした子供達が可視化されたことで助かった、のであれば、むしろ「コロナのおかげ」とも言えるかもしれない。一方、社会的に様々な形でカバーされていたおかげでなんとか繕われていたという子供達の生育環境が、いかに不安定なものだったか、という真実の姿を晒している面もあろう。去年までとまったく同じ仕組みの生活を送れる社会には、もう戻ることはないのかもしれないのなら、不安定な生育環境にいた子供達を救うには、新たな救済手段が講じられるしかない。「新しい生活」というのは、ネガティブな環境にも平等に影響を及ぼす。新しい生活スタイルのもとで、不安定な人々でもなんとか生き延びていける環境が醸成されるまでに、いかにして不幸を最小に抑えることができるだろうか。