そこで知事は、島に中村さんの天敵を連れてくることにした。最大の天敵は、タカナシさんだという。
「ただし、これは“小鳥遊”と書くタカナシさんだけで、他のタカナシさんはあまり中村さんを捕らないようです。あとは“一(ニノマエ)”さん、“薬袋(ミナイ)”さん、“己己己己(イエシキ)”さん」
「もっと手頃なのはいないのか?」
「一応、望月さんというのもいます」
「それでいいじゃないか」
「ただ、望月さんは山本さんの天敵でもあるんです。もし望月さんを使うことになりますと、島の山本さんたちにも被害が及ぶ恐れが」
「多少の犠牲はやむをえまい」
「見殺しにするんですか!」
結局、島の大きな病院に山本さんたちを匿ったうえで、島に望月さんたちを送り込んで中村さん殲滅作戦を決行することに……。
そのバカバカしい発想も凄いが、『大発生』が圧倒的に面白いのは、端正な顔立ちにトボケた可笑しさが漂う丈二がパニック映画さながらの台詞をあくまでシリアスな語り口で表現するからこそ。知事と部下の会話だけで進行する構成も見事に功を奏している。“圓丈一門の鬼才”丈二が生んだ、歴史的な名作だ。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。
※週刊ポスト2020年10月30日号