月9に主演する上野樹里

局の方針と矛盾し、時代に逆行した戦略

 この「1話完結の刑事・医療・リーガル・法医学ドラマ」は、そっくりそのままテレビ朝日のドラマ戦略と合致。事実、月9ドラマはテレビ朝日のドラマと同じように、世帯視聴率2桁を獲得できるようになったものの、フジテレビ周辺では「本当にこれでいいのか? 広告収入は得られるのか?」と不安視する声もあがっていました。

 しかも今春、視聴率調査が大幅にリニューアルしたことで、「世帯視聴率よりも個人視聴率を優先。しかもキー特性を重視」という方針に一変。民放他局に目を向けても、日本テレビは13~49歳を「コアターゲット」、TBSは13~59歳を「ファミリーコア」と呼んで重視していて、テレビ朝日だけ取り残された状態となっています。

 月9ドラマは、「局の『キー特性重視』という方針と矛盾した戦略を続けていいのか?」「時代に逆行するテレビ朝日を踏襲した戦略でいいのか?」という危うさを抱えているのです。

コロナ禍でCM出稿量が大幅に減る中、ターゲットがキー特性から外れたドラマでは広告収入の面では苦戦必至であり、世帯視聴率が取れても意味はありません。だからこそ11月2日スタートの『監察医 朝顔』続編は、中高年層の好む法医学ドラマでありながら、キー特性に見てもらうための工夫をしなければいけないのです。

最高レベルゆえに失敗なら戦略変更

 その点で鍵を握りそうなのは、法医学ドラマとホームドラマの割合。昨年放送された第1シリーズは、法医学のシーンが6~7割、ホームドラマのシーンが3~4割のバランスで描かれ、各話の事件解決や死因究明だけでなく、主人公一家のエピソードをじっくり描いていました。

 よりキー特性に見てもらうためには、主人公一家のエピソードをより温かく、ハートフルに描くことが必要でしょう。ただでさえコロナ禍で重苦しいムードが漂う中、事件解決や死因究明のシーンが増えるほど、キー特性の心をつかむことは難しくなっていくはずです。

 もう1つ忘れてはいけないのは、放送終盤の来年3月に東日本大震災から10年の節目を迎えること。同作は「東日本大震災で主人公の母が行方不明になり、今なお行方がわからず探し続けている」という設定だけに、「クライマックスとなる来年3月の放送で、いかに引きつけられるか」が問われているのです。世代を超えて感動を与える物語にできれば、世帯視聴率だけでなく、キー特性の個人視聴率も獲得できるはずです。

 そもそも『監察医 朝顔』は、「1話完結の刑事・医療・リーガル・法医学ドラマ」という戦略の中では最高レベルのクオリティを持つ作品。この中では他作よりもキー特性をつかめる可能性があり、だからこそ2クール放送を決めたのでしょう。しかし、最高レベルだからこそ、もし失敗してしまったら、さすがに戦略を変えなければいけないでしょう。

 たとえばTBSの火曜ドラマは、かつての月9ドラマを思わせる恋愛ドラマで若年層からの支持を得ています。すでに局内外から「本来、月9ドラマが目指すべきはテレビ朝日ではなくTBSのドラマ戦略」という声もあがっているだけに、『監察医 朝顔』の結果は月9ドラマの未来を左右するのではないでしょうか。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

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