社会のなかで生きていく以上、風向きの悪い立場に追い込まれてしまうことは誰にでもある。大人力について日々研究を重ねるコラムニストの石原壮一郎氏が考察した。
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総理大臣は日本のリーダーです。常に国民の幸せを願い、全身全霊で日々の仕事に励んでくれているはず。そんな姿から、多くのことを貪欲に学ばせてもらいましょう。
前総理の安倍晋三氏も、その言動を通して私たちに多くの学びを授けてくれました。とりあえず「やってる感」を出すことが大事だとか、どんなに無理筋な弁解でも言い続ければやがてうやむやにできることとか……。9月に就任した菅義偉総理大臣も、負けず劣らずというか似たり寄ったりというか、さっそく貴重な学びを授けてくれています。
10月26日からスタートした臨時国会で野党が追及しているのが、菅総理が日本学術会議が推薦した105人の候補のうち6人を任命しなかった問題。任命しなかったこと以上に、理由をいくら聞かれても「総合的、俯瞰的な観点から」とか何とか言って、まともに説明しようとしないことが批判を呼んでいます。
誰が判断したのかは今のところ謎ですが、総合的、俯瞰的に見て、6人が任命されなかったのは、要するに「政府に都合が悪いことを言う気に食わないヤツら」だから。しかし、そう言ってしまうとさらに大きな問題に発展するのは明らかなので、菅総理はあの手この手で理由を答えることを避け続けています。
今、菅総理が私たちに身を持って教えてくれているのは、都合が悪いことを聞かれたときに「とことん論点をずらす」ことの大切さと具体的なやり方。さすが「後継者」だけあって、ある意味、安倍政権の伝統を踏襲しているとも言えます。昨今の日本学術会議がらみのやり取りから、論点をずらすための「3つのコツ」を見つけてみました。
【都合が悪いときに論点をずらすための3つのコツ】
その1「『そもそも論』を持ち出して対象全体を悪者にする」
その2「支離滅裂でも何でもいいので問題ないと言い張る」
その3「事実無根でも何でもいいので適当な理由を付ける」
大きな話だと、その不自然さが見えづらくなります。身近なシチュエーションに置きかけて、菅総理がやっていることはどういうことなのかを考えてみましょう。なお設定はフィクションであり、実際の任命拒否問題とはいちおう関係ありません。
A部長が関連会社の社長に就任するにあたって、祝賀会をやることになりました。福利厚生費から多少の補助も出ます。幹事を仰せつかったB課長は、呼ぶ人の名簿作りを部下のC係長に命じました。C係長からメールで送られてきた名簿を見て、B課長は眉をひそめます。そこにはA部長が大嫌いなライバル部署のD部長の名前が入っていました。
幹事のB課長は、D部長の名前を削除。その上で「こういう感じでどうでしょう」と主役のA部長に見せました。B課長が勝手に忖度してD部長の名前を削除したのか、あらかじめA部長が「Dは呼ばなくていい」と指示していたのか、それはわかりません。
盛況に終わった送別会の翌日、A部長の席にD部長がすごい剣幕で乗り込んできました。「おいA、どうして俺を呼ばなかったんだ。理由を説明しろ!」と言っています。
本当の理由は「大嫌いだから」ですが、それを言ったら大問題に発展して、せっかくの出世がフイになりかねません。A部長は口ごもりながら「総合的、俯瞰的に判断して……」と答えたものの、火に油を注いだだけでした。なおさら激怒したD部長は「理由を言うまで俺はここを動かない」と仁王立ちしています。