A子のタクシーがいきなり路上でハザードランプを点けて停車。しかし、中からA子が降りてくる様子はなく、車内から窓越しに周囲を窺っているように見える。調査員は冷静な口調でマイクに向かってこう伝えた。「本人が警戒している可能性もあるため、本日の尾行は中断する」。
朝からA子を待っていたが、少しでも警戒している可能性があれば追跡続行は断念する。
「バレたら終わり。少しでもリスクがあれば止めます」(同前)
翌日も朝から同様のシフトを組んだが、19時半に依頼人が帰宅するまでA子が外出することはなかった。
「これまでは1日に数回は主婦も外出することが多かったのですが、最近は食材を買いだめしているのか全く外出しないケースも少なくない」(同前)
3日目、再びA子が外出。尾行初日と同様、駅前でタクシーに乗る。先にタクシーに乗り込んだ調査員が姿を確認し尾行を開始。都内のビジネスホテル近くで停車。男女の逢瀬にはふさわしくない地味な外観だ。A子が1人でホテルに入ったのを確認すると、調査員は張り込み態勢を取る。エントランスが見通せる場所に車を停車させ、人目を盗んでダッシュボード上に小型カメラをセット。ホテルに向けて回しっぱなしにする。
「相手の男性とはホテル内で合流すると考えられます。後ほど出入りした人物を全てチェックするため、ビデオで録画しておきます」(同前)
約2時間半後、A子はスーツ姿の男性と2人でホテルから出てきた。そのまま揃ってスーパーへ向かい買い物。終わると今度はタクシーに乗り、最寄りの駅でA子だけを降ろすとそのまま走り去っていった──。3日目にしてついに“決定的瞬間”をカメラに収めたわけだが、調査はまだ終わらない。
「短時間、ビジネスホテルにいたというだけでは“打ち合わせをしていた”などとごまかされる可能性もあるので証拠として弱い。過去には、実は浮気ではなくデリヘルのバイトをしていたケースもありました。今日は別れた後、男性の自宅まで追うことができませんでしたが、密会のパターンは掴みました。このまま調査を継続します」(同前)
男性の依頼主は泣き出す
その後、翌週も同じホテルから出てくる2人を発見し、今度は相手男性の帰路を尾行した。
「不倫相手の自宅を特定し、身元調査をしてみると、なんと超有名企業の役員でした。A子さんとどこで知りあったのか接点がなかなか見つからなかったのですが、依頼主に彼女の経歴を聞いたところ、かつてタレント活動をしていたことが分かりました。その頃に出演したイベントの協賛企業に、その男性の会社名を見つけました。恐らくそこで知りあったのではないかと思われます」(同前)