今浪は選手から「ナミさん」と呼ばれている。これは監督と呼ばせると選手が委縮して、コミュニケーションに弊害が生じると考えた今浪の発案で、選手に決めてもらったという。現役時代の経験に加え、メンタルコーチとして学んだ知識や理論が指導理念に裏打ちされている。そのお陰もあって練習中は今浪、コーチ、選手が笑顔で声を掛け合う姿が目立つ。
「アマチュア特有の理不尽な上下関係に悩まされた部員も少なくない。ピリピリしたほうが効果的な時がありますが、楽しみながらやった方が上達すると考えています。ミーティングも10分以内に終わります。試合中のミスもチームで共有するだけで全員の前で指摘しません。本人が一番責任を一番感じていますから。個別で注意した方が効果的です」(今浪)
監督を引き受けた今浪だったが、実は軟式野球の経験がなく、最初は戸惑った。軟式球は叩きつければ大きく弾むため、相手チームの3塁走者がエンドランのサインで走ってくる。初めて仕掛けられた際は、「何が起きたんだ」と面食らったという。今浪が振り返る。
「最初は野球に対して身体もストレスを感じたのでしょう。よく蕁麻疹が出ていたのですが、今は出なくなった。部員が10人しかいないので、ケガ人が出たときは僕が出場したり。色々楽しくやっています」
創部1年目の今年はコロナ禍で公式戦が軒並み中止となったが、3月に開催された台東区春季大会を勝ち抜いて、東京都軟式野球連盟秋季大会でベスト4に進出。「全国大会も十分に戦える」と手応えをつかんだ。選手もその思いは共有している。
投打の中心として期待される城島は「野球から離れようとしたとき、こうして拾ってもらった。今浪さんに感謝の思いしかないです。アドバイスも的確でまだまだ野球がうまくなっている実感がある。軟式野球で日本一になって今浪さんを胴上げしたい」と新たな目標に向けて目を輝かせる。リードオフマンの近澤も「今浪さんや会社のおかげで野球を続ける環境を頂いて今は幸せです。仕事で貢献することは当然ですが野球でも日本一になりたい」と誓う。
●取材・文/平尾類(フリーライター)