相手が思いの丈を吐露して救われたと感じたとき、相談員もまた同様の気持ちを感じている。「北海道いのちの電話」の別の相談員はこんな経験を明かしてくれた。
「女性関係で悩んでいる男性からずっと話を聞いていたら、30分ほどたったとき、その相談者の男性から『どうして、ぼくのくだらない話をこんなに聞いてくれるんですか?』と尋ねられたことがあった。
『当然のことです』と答えると、その男性は一転、胸の内に抱えていた本当の悩みを打ち明け始めました。それは、別居中の奥さんと住む子供に会えなくてつらいという話でした。こちらが相談者の話を否定することなく聞き続けたことで、普段は誰にも話すことができず、心の奥底に抱え込んでいた悩みを話してくれたのだと思います。これは、相談員の私にとって、うれしい出来事でした」
精神科医の樺沢紫苑さんが指摘する。
「人間は相手への信頼度の深さによって、開示する情報の量や質を無意識に決めている。この相談員は、相手の話を聞くことで信頼され、関係を深めたのだと思います。また、心を不安にさせる真の悩みは、表面的な別の悩みに覆い隠され、本人すらそれを自覚できないことも少なくない。だからこそ、悩みを聞くことは難しく、また重要なのです」
鴨居にロープをかけた60代女性の話に耳を傾けた相談員は、「死のうと思っていたけれど、今日はこうして電話をかけてくださったんですね」と語りかけると女性は少し驚いてこう発した。
「あ、私、生きたいっていう気持ちがまだあるんですね」
相談員が振り返る。
「この女性はご自身でそれに気づいたんです。その言葉を聞いて、私はまだこの女性には生きる力があると感じました。そして、『最後にひとつお願いがあります。もういすに乗るのはやめてほしい』と伝えました。すると女性は、『はい』とはっきり返事をしてくれました。話をするうちに、相談者が自ら生きたいと思っていることに気づくことは、自分にとってこの上ない喜びです」
【相談窓口】
「日本いのちの電話」
ナビダイヤル0570-783-556(午前10時〜午後10時)
フリーダイヤル0120-783-556(毎日午後4時〜午後9時、毎月10日午前8時〜翌日午前8時)
※女性セブン2020年12月3日