この時は、A氏を頼ってトランプ氏にインタビューしようとしていたのだが、この話を聞いて、話してもつまらなそうなので断念した。A氏の見立ての通りならば、トランプ氏の4年間は、自分の価値観や世界観に基づく国づくりなどではなく、迫りくる課題や問題はすべて競争相手からの挑戦であり、ただ勝って勝って勝ちまくらなければならない、という戦いの日々だったことだろう。それがアメリカのビジネスマンの考え方である。
もうひとつA氏の言葉で印象的だったのは、「トランプ氏は疑り深い人間で、身内しか信用しない。仕事のうえでは娘婿のクシュナー(現・大統領上級顧問)だけだ」という指摘。自分を支持する限りは共和党を頼ったが、苦言を呈されたり方針に意見されたりすると、途端に罵倒し、脅し、力でねじ伏せようとする手法からもそれは推測できる。もちろん、民主党の言うことはすべて拒否である。
負けることを考えて選挙に臨む人間ではないし、バイデン氏は「敵」なのだから、反撃と復讐を誓うことはあっても、笑顔で握手を求めたり、勝利の美酒を飲ませる気持ちはないだろう。マシューズ報道官は、トランプ氏が沈黙の期間に「アメリカ国民に対する約束を果たし、経済の再建、薬価の引き下げ、軍の撤退と戦争の終結、そして年末までに安全で効果的なコロナワクチンを接種するという野心的な目標達成に懸命に取り組んでいる」と説明した。それは事実かもしれないし、籠城の言い訳かもしれない。どちらだとしても、沈黙したことの意味は、おそらく敗北を認めたということだ。まだ戦いが終わっていないなら、彼は黙るような人間ではないのだから。