貴乃花が武蔵丸との横綱決戦(写真/共同通信社)
ただ千秋楽が終わってから、どんどん痛みが増してきました。この時「もう相撲は取れない。引退だな」と思ったのは事実です。今考えると、ここで引退していれば師匠はじめ周囲も納得してくれたでしょうし、自分としても綺麗な引き際だったかもしれません。でももう一度土俵に立ちたい思いがあり、半月板を取り除く手術をしました。横綱として、出るからには優勝に絡まないといけない。土俵に上がれる状態になるまでには時間がかかり、マスコミにも騒がれました。休場からの復帰の8場所目になんとか準優勝しましたが、今度は肩を痛めるなど別のケガを負ってしまい、ついに引退を決断しました。
仮にあの右膝のケガがなくても、あまり変わらない時期に引退していたと思います。22歳で横綱になった時に命がけでやろうと突き進んできたので、30歳を超えてもやれる自信がなかったですね。長く続けることが横綱の使命ではありません。いかに花を咲かせ、いかに散らせるか。自分としては、あのケガを乗り越え、もう一度土俵に立てたことを誇りに思っています。
【プロフィール】
貴乃花光司(たかのはな・こうじ)/1972年生まれ、東京都出身。第65代横綱。引退後は一代年寄・貴乃花を襲名。
※週刊ポスト2020年12月11日号