菅首相と「成長戦略会議」メンバーとの間には…(時事通信フォト)
菅が読んだ本は、2015年にアトキンソンが東洋経済新報社から出版した『新・観光立国論』だ。いわば菅はアトキンソンのネームバリューを使い、インバウンドの指南役に仕立てただけではないだろうか。
かたやアトキンソンにもメリットはある。小西美術工藝社は、インバウンドの観光政策が大きな利益を生んでいる。
「文化財を活用した観光で注目を集めれば、その文化財を保護するための補助金も得られやすくなる。国の財政が厳しい現在、観光資源にならなければ保護も厳しくなる」
2017年4月26日付朝日新聞東京朝刊には、アトキンソン本人がそう談話を寄せている。実際、2017年に補修を終えた国宝の「日光東照宮陽明門」は、その総工費約12億円のうち55%を文化庁の補助金で賄い、その大部分の工事を小西美術工藝社が担った。2018年の年間売り上げ約8億2000万円が2019年には約9億8000万円と2割アップ、コロナ禍の今年も増収を見込む。
中小企業の数を減らせ
このアトキンソンの提言は観光にとどまらない。もう一つの持論が、最低賃金の引き上げなどによる中小企業の再編だ。日本の企業の99.7%を占める中小企業の数を減らし、生産性を高めよ、という主張で、菅も検討を指示している。が、霞が関の官僚からは不満も大きい。
「中小企業の賃金問題や数が多いのは誰もがわかっているけど、そう簡単に整理統合はできません。企業を減らせば大量の失業者が発生するのは目に見えており、徐々に変えていくしかない。経営者にしてみたら、ただでさえコロナ禍で経営が苦しいのに実情がわかっていない外国人に言われたくないよ、という思いではないでしょうか」(ある経産官僚)
つまるところ、菅はスマートな外資系アナリストを表看板に据え、以前からあるもっともらしい政策をあたかも独自のアイデアであるかのように進めているに過ぎない。
もっともなぜ菅がアトキンソンにたどりついたのか、どうやって老舗の文化財補修企業の経営を手掛けるようになったのか。そこについては、謎が残る。日本の伝統文化に携わる産業とはいえ、小西美術工藝社は売り上げ規模が10億円と、名うての外資系アナリストにとってはさほどうま味のある会社とも思えない。