芸能

春風亭一之輔 八五郎が勝手に動き演者が笑い出した『つる』

春風亭一之輔の『つる』に、春風亭一之輔自身が笑う(イラスト/三遊亭兼好)

春風亭一之輔の『つる』に、春風亭一之輔自身が笑う(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、春風亭一之輔の独演会で演者が登場人物のアドリブに本気で笑う「滑稽の神が降りてきた」日についてお届けする。

 * * *
 毎秋恒例、春風亭一之輔のよみうり大手町ホール独演会「落語一之輔」シリーズ。今年は3日間の昼夜公演「一之輔三昼夜」(10月25~27日)で、昼はゲストを招いての企画公演、夜はネタおろし1席を含む独演会。昼公演は初日が「僕の好きな色物さん」でトリは紙切りの林家正楽。二日目は三遊亭天どんとの二人会、三日目は師匠一朝との親子会。夜のネタおろしは第一夜が『佐々木政談』、第二夜が『もう半分』、第三夜が『たちきり』だった。

 奉行の佐々木信濃守が四郎吉という子供の頓智頓才を気に入って士分に取り立てる『佐々木政談』。一之輔は四郎吉を素直で可愛い子供、奉行を器の大きな人物として描いていて、実に気持ちいい。桶屋を継がせようとしていた父が「桶屋はどうする?」と訊くと四郎吉が「捨ておけ(桶)」でサゲ。三遊亭圓窓の型だ。

『もう半分』は殺害場面で鳴り物が入って芝居がかりになる五街道雲助の型。志ん生系や五代目今輔系とは違い酒屋の亭主も悪党で、口封じのために爺さんを刺し殺す。

『たちきり』は入船亭扇橋の型で、八代目可楽同様、若旦那が惚れた娘芸者の名は小糸ではなく「小久」。上方由来の大ネタ人情噺だが、第三夜のハイライトは『たちきり』ではなく、1席目の『つる』だった。

 一之輔の落語で「隠居が八五郎にモノを教える」とき、しばしばこの二人は勝手に動き始める。この日の『つる』がまさにそれだ。

「つるの由来」にいちいち「なんで?なんで?」と訊いて話の腰を折る面倒臭い八五郎に根気よく説明する隠居。「昔むかし、唐土の……正直ここはどうでもいいよ。何ならお爺さんも、とばしていい」 すると八五郎「え、お爺さんも飛ぶの?」と羽を広げるポーズ。思わず噴き出す隠居、というか一之輔自身。

「面白いなオマエ(笑)。ホントに笑っちゃったよ、俺。お爺さん飛ばないよ。だから白髪の……(羽を広げる八五郎に噴き出す)先へ進まないから!(また羽を広げる八五郎)やめろよ! 笑っちゃうから!」

関連キーワード

関連記事

トピックス

行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
嵐について「必ず5人で集まって話をします」と語った大野智
【独占激白】嵐・大野智、活動休止後初めて取材に応じた!「今年に入ってから何度も会ってますよ。招集をかけるのは翔くんかな」
女性セブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
不倫騒動や事務所からの独立で世間の話題となった広末涼子(時事通信フォト)
《「子供たちのために…」に批判の声》広末涼子、復帰するも立ちはだかる「壁」 ”完全復活”のために今からでも遅くない「記者会見」を開く必要性
NEWSポストセブン
前号で報じた「カラオケ大会で“おひねり営業”」以外にも…(写真/共同通信社)
中条きよし参院議員「金利60%で知人に1000万円」高利貸し 「出資法違反の疑い」との指摘も
NEWSポストセブン
SNSで「卒業」と離婚報告した、「第13回ベストマザー賞2021」政治部門を受賞した国際政治学者の三浦瑠麗さん(時事通信フォト)
三浦瑠麗氏、離婚発表なのに「卒業」「友人に」を強調し「三浦姓」を選択したとわざわざ知らせた狙い
NEWSポストセブン
昨年ドラフト1位で広島に入団した常広羽也斗(時事通信)
《痛恨の青学卒業失敗》広島ドラ1・常広羽也斗「あと1単位で留年」今後シーズンは“野球専念”も単位修得は「秋以降に」
NEWSポストセブン
二宮が大河初出演の可能性。「嵐だけはやめない」とも
【全文公開】二宮和也、『光る君へ』で「大河ドラマ初出演」の内幕 NHKに告げた「嵐だけは辞めない」
女性セブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【ケーキのろうそくを一息で吹き消した】六代目山口組機関紙が報じた「司忍組長82歳誕生日会」の一部始終
NEWSポストセブン
品川区で移送される若山容疑者と子役時代のプロフィル写真(HPより)
《那須焼損2遺体》大河ドラマで岡田准一と共演の若山耀人容疑者、純粋な笑顔でお茶の間を虜にした元芸能人が犯罪組織の末端となった背景
NEWSポストセブン
元工藤會幹部の伊藤明雄・受刑者の手記
【元工藤會幹部の獄中手記】「センター試験で9割」「東京外語大入学」の秀才はなぜ凶悪組織の“広報”になったのか
週刊ポスト
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン