代表決定戦は異例の一騎打ちで、本戦4分で決着がつかなければゴールデンスコアに入り、勝敗が決着するまで無制限で争われる。

「スタミナは息子のほうに分があり、長期戦になると有利だと思いますが、冬場の試合ですしなにせワンマッチですから、勝敗に影響はないでしょう。阿部君に対し、城志郎の内股がかかるとは思わないし、(過去の対戦で有効だった)巴投げももうかからんでしょう。ワンマッチだからこそ、阿部君はよりガンガンと前に出て圧力をかけてくる。城志郎の技を力で返したり、いなしたり、強引に技をかけたり……阿部君の破壊力を考えれば、やはり城志郎の分が悪い」

 天理大の穴井隆将監督は教え子である丸山と阿部の試合を「日本刀と鉈の戦い」と表現していた。教本に載っているような、美しく切れ味するどい丸山の柔道と、一度掴んだら強引に担ぎ技に入って相手を豪快に放り投げようとする阿部の柔道を見事に対比した言葉だろう。

 ふたりの世界王者による、五輪本番よりも面白い世紀の一戦――無観客で行われるこの試合を、顕志氏はどこで、いかなる表情と感情で見守るのだろうか。

◆取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)

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