島野さんの言葉はもっともだ。2019年まではそんな感じで新しい働き方、ギグワークとしての側面が強かった。それ故にもてはやされたし、配達員の登録者も少なかったので片手間でもそれなりに稼げた。しかし2020年、コロナウイルスによる雇用不安と失業者の増加、在留外国人の窮乏による過当競争化から配達員同士の仕事の奪い合いとなり、不透明な配達員のリクエストシステムは地蔵を増やした。
「ウーバーを続けてきた私が言うのもあれですけど、イメージもあれだしコロナも悪化しそうなんで、今年でやめようと思ってるんです」
筆者が声をかけたのは丁度いい機会だったということか。ウーバージャパンはこのままでは島野さんのようなまともな配達員に見限られ、残るは食い詰めた多国籍地蔵集団のみ。日本人は世間体大事の文化ゆえ企業イメージに敏感で、一度ついた悪いイメージを払拭するのが難しいことをウーバー・テクノロジーズはわかっていなかった。
この記事は現地取材を終えたのち、直接ウーバージャパンに質問状を送り、現状の取り組みを説明していただいた上で改めて起こしたものである。回答をきちんとしていただいたこと、不十分ながらも日本社会に対応しようという姿勢は理解できた。バッシングばかりではフェアではないし、問題解決にはならないだろう。
「あとこれ書いてほしいんですけど、みっともない地蔵をやめてほしいのはもちろんですけど、自転車でも道路交通法は守れって言いたいです。ほんと危ないし自転車のイメージ悪くなるんで、ウーバーに限ったことじゃないですけど、お願いします」
自転車のマナー違反、とくに危険なのが車道で信号が赤になったら歩道に乗り、歩行者信号の青で渡り、また車道に戻る行為だと島野さんは言う。本来は自転車に乗る人、まして業務で運行しているウーバーイーツの配達員は赤信号になったら当然、ほかの車やバイクと同様に停止するべきである。現実は守っている配達員などほとんど見たことがない。すぐに車道から歩道へ赤信号をかいくぐる。その他にも自転車のマナー違反はキリがない。それはそっくりウーバーイーツの配達員の多くに当てはまり、現に社会問題となっている。
自転車も一時停止をしなければならないのにしない。車を運転する側からすれば危険極まりない。法的拘束力のある「自転車免許」新設とまで言わないが、これだけ急速に拡大したオンラインフードデリバリーサービスに何らかの国としての法的整備も必要だろう。せめてヘルメットくらい被ってほしいが、ウーバージャパンは着用を推奨しているが義務化はしていない。これも今年の10月1日からヘルメット着用の有無で障害補償に差をつけることで着用を促進するとのことだが、義務化してはどうだろうか。
ウーバージャパンの2019年度決算は純利益162%増、このコロナ禍で2020年はさらに利益を伸ばすだろう。批判はあれど、現実には利用者も、従事する配達員も多い。その批判に真摯に向き合えば新しい働き方、多様なライフスタイルを提供する優良企業として愛される存在になれるかもしれないのにもったいない話だが、少しずつの前進は見える。島野さんだって本当は続けたいはずだし、こうしたライダーの思いとライフスタイルに応えることが、ウーバー・テクノロジーズ本来の理念だったはずだ。これからは社会の声に耳を傾ける企業となることを信じたい。
●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。近刊『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)寄草。近著『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)