認知症は超早期に発見して予防を開始すれば改善ができる。このことは、2019年5月にWHO(世界保健機構)が発行した「認知症予防ガイドライン」で提唱されている。また厚生労働省の「認知症施策推進大綱(2019年6月)」で掲げられた「共生と予防」の「予防」とは、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」と明記されている。
早ければ30代から脳細胞の変性が静かに始まっている
「認知症は加齢に伴い脳内タンパク質タウが引き起こす神経原繊維変化によって脳細胞の変性と破壊へ進み、長期間かけて発症に至ります。
心理テストや多くの認知症判定検査で初めてMCI(軽度認知障害)と判定される人の多くは、自覚症状が出る数十年も前からすでに、嗅内野(きゅうないや)と呼ばれる脳の奥の部位で最初に細胞異常(神経原線維変化)が起きており、そこから徐々に脳内の各部位に拡がりやがて症状が現れるほどに進行していったのです。早い人では30代から嗅内野で細胞異常が始まることがこれまでの研究から分かっています」
こう話すのは、理化学研究所や国立長寿医療研究センターなどで長年アルツハイマー病の研究を続けてきた高島明彦氏(現・学習院大学理学部生命科学科教授)だ。認知症超早期判定方法と発症予防サービスを開発するベンチャー企業、MIG株式会社を甲斐英隆氏とともに3年前に創業した。
認知症をまだ深刻に捉えられない40代、50代の人にしてみたら、「日常生活でも物忘れはよくあるし、たいしたことはないだろう」と軽く考えて放置しがちだが、いざMCI、アルツハイマー型認知症初期などと診断されてからでは、治療薬が開発されていない現状では打ち手が限られているという。
「早期と呼ばれるMCIでも、すでに脳細胞の変性や破壊が脳の各部位で起きているため、予防が効果的にできない段階まできていますし、アリセプトなどの認知症発症遅延薬による一時的な遅延効果を期待するだけです」(高島氏)
しかし、自覚症状が出ていない認知症発症リスクをどうやって判定するのか──。これまで認知症検査といえば、「長谷川式」などが用いられてきたが、これはMCIかすでに認知症になった人の進行度を判定するものがほとんどで、まったく自覚症状がないが静かに嗅内野で始まっている脳細胞の異常、つまり脳細胞変性の初期の状態を判定することは不可能だった。
また、近年は人間ドックのオプションとして脳ドックを受ける人も増えたが、脳の萎縮による体積の変化は症状が進んだ状態でないと脳画像で判別できない。やはり脳老化の初期状態を的確に捉えることは難しいという。