母の認知症介護が起業のきっかけ
そんな中、認知症発症リスクを早期発見し、予防までサポートするサービスの提供をしているのが、前出のベンチャー企業、東京・銀座に拠点を置くMIGだ。
社長の甲斐英隆氏は自身の母も認知症を患い、10年ほど介護生活を送る中で、やり切れない思いを抱えていたと話す。
「実際に家族が発症してしまえば、本人はもちろん家族にとっても“無念”の一言。知識がないうちは、病院で専門医に診ていただければ良い薬を使って有効な遅延ができると思っていましたが、遅延薬が効いたのも非常に短期間でした。
その後は急速に記憶が薄れて子供の顔も長年連れ添った父の顔さえも認識できなくなった母を、見守って介護していくしかありませんでした。最近になって超早期に気がつき予防すれば有効に遅延できることを知り、もっと早くに見つけてあげられれば母も予防ができたのではないかと、今さらながら悔しい思いをしています」(甲斐氏)
そんな甲斐氏は、認知症予防サービスベンチャー企業の創業を決意して、志を共有してくれる認知症予防分野の専門家の先生を探していたある日、〈認知症治療は既成概念にとらわれ過ぎてイノベーションを起こせない〉という趣旨の新聞記事を見つけた。
寄稿していたのは、その後共同創業者になった高島明彦氏だった。共感を覚えた甲斐氏はすぐに高島氏にコンタクトを取り、そこで改めて日本の遅れた認知症研究の実態を知ったという。
人生100年時代に、認知症の母の枕元で寂しそうな顔で見つめる父親や、認知症の親の介護の日々が始まる家族をできる限り増やさないことに貢献したい、と使命感を持った甲斐氏。長年大企業で培ってきた経験を活かし、新しい認知症予防サービスを手掛けるベンチャー企業を立ち上げたというのが、MIG設立の簡単な経緯だ。
高島氏は共同設立者として参画し、同社では取締役CSO(チーフサイエンスオフィサー)の肩書きを持つ。
「そのままだと“ジジイベンチャー”でしたが、巨大な社会課題である認知症予防にチャレンジするMIGのビジョンに共感して、数多くの多才異才の若者たちが集まってくれたのでこの先駆的なサービスが開発できました」(甲斐氏)