VR技術で測る「空間ナビゲーション機能」とは
「Brain100 studio」と名付けられたMIG社のサービスは、認知症の自覚症状がまったくない人でも将来の発症リスクを知ることができ、多岐にわたる認知症の発症リスク(16項目)をスマホアプリで見える化し、生活習慣の改善などを通じて発症リスクの低減を日々長期にわたって継続的にサポートしてくれるというもの。
まず初期の認知機能の衰えを発見するために用いられるのが、最新のVR技術だ。前述したように、認知症の超早期を発見するためには脳の嗅内野の機能低下を調べる必要があるが、この嗅内野の特徴的な役割のひとつとされているのが「空間ナビゲーション機能」である。
人間や動物は、ある地点から移動する場合、無意識に自分の位置を把握しどのくらい移動したかを認識している。この空間ナビゲーション機能が正しく働いているかVRゴーグルでのテストで計測することにより、認知症につながる超初期段階に現れる嗅内野の脳細胞異常がどれほど進んでいるか、発症のリスクがどの程度まで進んでいるかを判定することができる。
軽度認知障害を引き起こすはるか前、「超早期」でのリスク判定方法をMIGが確立したわけだ。“認知症予備軍”でも兆候をつかむことができる計測システムである。
「MIGが実施した臨床試験の結果では、20代の被験者がこのVRテストをやると、ほぼ全員が正確に位置を認識しているというデータが出ていますが、50代以上になると急速に成績のバラツキが大きくなります。
これは個々人の日常生活における認知症発症要因のリスク状態に差があるため、脳細胞異常の進行速度が異なり、50代以降に空間ナビゲーション機能の差、すなわち嗅内野の機能の劣化の差が顕著に現れることを意味します」(甲斐氏)
被験者にはエラー距離などをもとに認知症発症リスクの総合評価が4段階(「かなり危険」「注意」「やや危険」「健常範囲」)で示されるほか、同年代と比べて平均より良いのか悪いのかの相対評価も知ることができる。だが、たとえ50代60代で平均よりも悪い判定結果であっても、生活習慣の改善で予防が可能なので悲観することはないそうだ。
試しにアラフィフの男性記者がVRテストを受けたみたところ、広場の中で2地点を通過する最初のテストから、スタート地点とは大きく外れた場所にしか戻ってこられなかった。結果は「注意」の評価、同年代平均より「非常に悪い」と惨憺たるものだった。