「それゆえ地方の医療現場には『経験』が不足している」
そう指摘するのは、血液内科医の中村幸嗣さんだ。
「都会を中心に、第3波以前にコロナ対応をした医療機関には試行錯誤を重ねた経験値があります。WHOは、レムデシビルは新型コロナに効かないとしていますが、日本の現場の医師の多くは適切なタイミングで投薬すれば効果があるとみています。しかし東北を中心に、第1~2波における治療経験が少ない地方の医療機関では、投薬のタイミングがわからず、重症化を招くケースが多いと考えられます」(中村さん)
国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんもこう指摘する。
「そもそも地方は高齢者が多いうえに同居家族が多く、ウイルスや感染症のエキスパートである医療従事者が少ない。加えて、低温で空気が乾燥する冬場になると飛沫が拡散しやすいので、特に北海道、東北地方は高リスクになります。
そうした高リスクの地方にある高齢者施設でクラスターが発生すれば、犠牲者の増加は避けられません。また、コロナで死亡する患者だけではなく、医療が逼迫することでコロナ以外の適切な医療が行われず、重症者や死亡者が増えるリスクもあります」
自宅療養者の増加も地方の死亡率増加につながるという。
「もともと自宅療養者が多かった大阪、愛知に加えて、昨年10月時点では自宅療養者ゼロだった愛媛、富山といった地方でも、最近は感染者が医療キャパシティーを超えて、自宅療養者が増えています。
医療の管理が行き届かない患者が増えると、重症化のリスクが高まるだけでなく、自宅療養者から家庭内感染や経路不明感染が増加する恐れがある。それによって感染の裾野が広がり、さらに重症者や死者が増える悪循環が生じる可能性があります」(一石さん)
地域によってさまざまな取り組みが進む
自治体によって、さまざまな感染拡大防止策に取り組んでいる。静岡は、クラスターが続発した地区名を公表する方針だ。
「具体的にクラスターの情報を開示することで、自粛を促す効果があります。静岡は感染者が増えているので、危機感から強い態度で県民に自粛を求めたのでしょう。賛否はあるでしょうが、感染拡大地域では有効な手段です。
また医療崩壊で救急患者が受け入れられなくなるリスクが指摘されるなか、救急患者を受け入れる医療機関に補助金を出すことも効果的です。実際に埼玉県では補助金が増額された民間のクリニックが、より病床数の多い病院にしようと移転を計画しています。経営が成り立つように補助金を与えれば、救急患者を受け入れる医療機関が増加して、医療崩壊を遠ざけることができます」(中村さん)